恋愛小説文庫 花模様

【春よコイ】 1 花びらが舞う頃
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【春よコイ】 1 花びらが舞う頃

  私の春はいつやってくるのだろう。それとも、このまま何事もなく過ぎ去ってしまうのかな。”いつか、御木本さんと結婚するかも” なんて胸に抱いていた微かな希望も、アナタが去った今、見失った気がするんだけど……桜舞う春、アナタのことなんて忘れて、新しい恋を見つけようか。城下町の風情が残る一角は城跡をしのばせる堀だけが残り、形の微妙に異なる石が綺麗に重ねられた石垣の脇には、数多くの桜が植えられている...
【春よコイ】 2 ふたたびの出会い
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【春よコイ】 2 ふたたびの出会い

  春は別れと出会いの季節というけれど、今年の春はまさにそうだった。 「鳥居さん、ちょっと」 常務が私に向かって手招きをしていた。 そばにいくと、今週末付き合ってもらいたいとのことで、詳しい話はなかったものの前にも同じようなことがあったから、その席がどんなものであるのか大体の見当がついた。 「私の他にもう一人くるが、気軽に顔を出してもらえないかな」 ほら、やっぱり思ったとおり。 去った人の...
【春よコイ】 3 思い出の人
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【春よコイ】 3 思い出の人

「ウチの会社って、なんか社員の肩書きって古くないですか?」 「会社じゃないでしょう、ウチは団体よ。社員じゃなくて職員。正式には団体職員。 何度も教えたでしょう」 「えーっ、だって会社って言わなきゃ友達にカッコ悪いですよ。 それに職員っての、ほかに変えたほうがいいと思います。 ほら、よくスタッフとかって言うじゃないですか」 「スタッフって、ここはお店じゃないのよ」 「お店って……鳥居さん、ショップって言って...
【春よコイ】 4 趣味と興味 
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【春よコイ】 4 趣味と興味 

御木本さんのことなんて忘れて、新しい恋を見つけるんだと粋がっていた。 仕事のことばかり話すアナタなんて、もう興味もないわと気持ちを切り換えたはずなのに、彼の声を聞くと心が揺れて、迷って、決められなくて……    私、どうしたいんだろう。 あぁ……わからなくなってきた。 自分の気持ちが整理できなくて、ため息をついたり、頭を振ってみたり、部屋の中を歩き回ったり、深夜の私は落ち着きをなくしていた。 何度目かのため...
【春よコイ】 5 彼の部屋
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【春よコイ】 5 彼の部屋

「鳥居さん、これ急ぎだけど頼めるかな」 「理事視察の工程表ですね。すぐにできますよ」 「頼むよ。いやぁ、さすがだね。私は何度やっても覚えられなくてね」 「いえ、以前はすべて入力しなければならなかったので手順も多かったのでしょうが、今はソフトがありますから」 それでも、パソコンが苦手な世代の最後と言われている常務理事は、私を尊敬の眼差しで見てくれた。 助かった、いつか食事でも……と、これも常務らしい世代の...
【春よコイ】 6 結婚したいのに……
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【春よコイ】 6 結婚したいのに……

週に1・2度、誘い合わせてランチに行く君山さんは、私と同じ歳で、去年パート勤務としてウチにやってきた。 結婚が早く、高校生と中学生の男の子がいる。 パートさんはほかにも何人かおり、ほとんどが数年勤務のベテランさんで、私にとっては正職員の若い子たちより、年齢が近い分だけ話が合うようだ。 中でも君山さんは私と趣味や関心が似ているらしく、すぐに仲良くなった。 「君山さん、昨日のドラマ見た? 歴史の設定が甘か...
【春よコイ】 7 ハッキリしてください
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【春よコイ】 7 ハッキリしてください

”今後、他の見合い話があっても全部断ってください” あの……と言ったっきり、言葉に迷う私に田代さんはこう言ってくれた。 「僕の気持ちは決まっていますから、鳥居さんの返事を待ってます」 私が返事を保留したことで、帰りの車の中は気まずくなるだろうと思ったのに、行きと同じような会話が続いていた。 少し違っていたのは、田代さんが自分の結婚観を話してくれたことだった。 「これまで、積極的に結婚したいと思わなかったん...
【春よコイ】 8 春がきた (終)
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【春よコイ】 8 春がきた (終)

冷たくて気持ちいい。 オデコだけじゃなくて、ほっぺたにも触ってほしいな。 体中が夏の太陽に照らされているみたいなの…… 時々触れてくるのが御木本さんの手だとわかるまで、ずいぶん時間がかかった。 薄っすらと開けた目の前に心配そうな顔が見えて 「どうしてここにいるの?」 と とぼけたことを聞いていた。 問われた顔が照れくさそうに笑いながら、私の頬をなでてくれた。 「熱があるからのどが渇くだろう。なんか飲む?」...