恋愛小説文庫 花模様

ティラミスに愛を
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ティラミスに愛を

「果梨、見てみて、すっごくかわいい! こんなラッピングって日本だけだよ。 けど、チョコレートオンリーだね。ねぇねぇ、どんなイベント?」 「バレンタインが近いじゃない。女の子が勝負にでるためのアイテムよ」 「あぁ、バレンタインデーか。でも、どうして女の子だけ?  むこうでは、男から女にプレゼントする日だよ。ねぇ、どうして?」 「菓子メーカーの戦略に乗せられたのよ。 バレンタインデーは、好き...
フォンダンショコラなふたり 前編
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フォンダンショコラなふたり 前編

その日は、いたるところで甘い香りが立ち込めていた。 決まった彼女がいる男は別として、決まった彼女のいない男たちはバレンタインデーの一日を落ち着かない思いで過ごす。 女子社員が持参するチョコレートに、期待する男どもは少なくない。 その他大勢に配られるチョコレートでも 「ありがとう」 と感謝をこめてもらうが、他の男より少し大きい箱だったり、包装紙に特別感が漂うチョコレートを 「はい、どうぞ」 と優しく言...
フォンダンショコラなふたり 後編
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フォンダンショコラなふたり 後編

夜は特に予定もなかったが、本命をもらえなかった憂さ晴らしだと街に繰り出す同僚に付き合う気にもならない。 見上げた空は雲行きが怪しくまた雪になりそうな気配で、こんな日はまっすぐ帰るに限る。 駅に向かって歩きながら、そろそろ夜のにぎわいが出てきた街に、着飾った女の子が妙に多いことに気が付いた。 今朝までの雪で足元も悪いのにハイヒールをはき、寒さをものともせず短いスカートだ。 もっと温かい恰好をすればいいの...
オランジェットな君の瞳 1
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オランジェットな君の瞳 1

窓から流れ込む空気の冷たさに顔が引き締まった。 それでも、朝の空気には春の気配が含まれ、遠くにのぞむ丘の土手には菜の花が咲き、木々の蕾も大きくなりつつあった。 近づく春を肌で感じながら、窓をそっと閉める。 ベッドで眠る彼女に起きる様子はない。 彼女が起きるまで何をしよう。 仕事をはじめたらきりがない。 副社長秘書の任務はやりがいはあるが、仕事に終わりがない。 秘書業務はスケジュール管理だけでなく、もろも...
オランジェットな君の瞳 2
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オランジェットな君の瞳 2

21時、静まり返ったオフィスを出た。 途中で食事をしようと思ったが、チョコレートの香りを放つ袋を下げたままどこかへ立ち寄るのははばかられた。 副社長ほどではないが、秘書課や関係先の女の子たちから毎年チョコレートが渡される。 ほとんどは義理や付き合いで渡されるものだが、若干本命らしきものも含まれている。 無愛想な僕のどこを気に入ってくれたのか、「好きです、真剣です」 と告白が書かれたメッセージカード...
オランジェットな君の瞳 3
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オランジェットな君の瞳 3

僕を名前で呼ぶのは、ごく限られた人だけ。 以前のボスと、現在のボス、それから……指折り数えるが片手に収まってしまう人数だ。 その中のふたりが 「里久ちゃん」 と親しく呼んでくれる。 海外で貿易の仕事に携わっていた頃、イタリアで結歌さんという女性と知り合った。 オペラ留学していた彼女は明るく陽気で、誰にでも好かれる性格で、人付き合いに積極的ではない僕も、彼女との付き合いは楽しかった。 めっぽう酒に強く、酔...
オランジェットな君の瞳 4
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オランジェットな君の瞳 4

真夜中、11時58分、もうすぐバレンタインデーが終わる。 何とか間に合ったと言いながら、ピンクの大きなリボンが印象的なトートバッグから箱を取り出して僕に渡した。 普段はきちんと結い上げる髪はほどかれ、大きく波うち、肩で揺れている。 同じくらいの年ごろの子がするネイルも霧乃の爪にはなく、けれどネイルが施された爪よりも美しい。 指先まで手入れが行き届いた手には、祖母から厳しく仕込まれた美しい所作がしみ込ん...
オランジェットな君の瞳 5
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オランジェットな君の瞳 5

仕事柄、接待の席に同行することも多い。 交渉相手と酒を酌み交わし、互いの胸の内を語り合う。 いつの時代も大事な席は、そのようにして設けられてきた。 酒が強い者にはよいが、そうでない場合、飲酒はストレスを伴う。 近衛副社長もそんな一人で、全くと言っていいほどアルコールを受け付けない体質だ。 宴席でスムーズに事を運び、出来るならこちら側が有利に立ちたいと誰しも願うもの。 そうなるには接待先の協力が必要となる...
佐倉達哉の秘密 (近衛副社長付き運転手)
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佐倉達哉の秘密 (近衛副社長付き運転手)

僕の彼女は優しくて、とても物わかりが良い。 仕事が忙しかったり出張続きで何日も連絡できなくても、すねたり怒ったりしない。 「連絡できなくて、ごめん」 「大丈夫ですよ。佐倉さん、お仕事頑張ってね」 と、こんな具合だ。 「どうして会えないの?」 「忙しくても連絡して」 とわがままを言われたこともない 。彼女の愛情が希薄かといえば、そんなことはなく、時間を作って会いにいくと、はじける笑顔で僕を迎えてくれるのだ...
湊すみれの恋愛観 (近衛HD常務秘書)
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湊すみれの恋愛観 (近衛HD常務秘書)

「ねぇ、見てみて、きれい」 「あぁ、見たみた」 「もぉ、勅使河原、ちゃんと見て!」 「俺が見たってわからないよ。けど、よかったな」 「うん」 勅使河原礼音 (てしがわら れおん) は、同期の同僚で、恋人で、半同居人。 この男に私の想いが届くまで三年かかった。 三年分の罪滅ぼしをさせて、付き合いをはじめることになった。 仕事はできるけれど、恋愛に関しては鈍感で、女の扱いにも不慣れな男だったが、ひとたび思いを向...
筧霧乃の憂鬱 (『割烹 筧』 若女将)
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筧霧乃の憂鬱 (『割烹 筧』 若女将)

「里久ちゃん、ごめんなさい」 「いきなりなんだよ。どうした」 「本当にごめん」 「だから、なんだって」 「あのね、里久ちゃんをゲイにしちゃった」 「僕がゲイだって?」 呆れた顔が私を覗き込む。 どういうことか、話してもらおうかって…… 里久ちゃんのその顔、怖いんですけど…… 「久我様のお嬢様が、あのね」 「久我の? 花蓮さんか」 「だって、堂本さん、お付き合いしている方、いらっしゃるのかしら、なんて言い出すから...
円城寺充の理想 (近衛副社長付)
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円城寺充の理想 (近衛副社長付)

コーヒーのまずさに思わず顔をしかめた。 豆の焙煎にこだわり、ライトローストがどうだと説明されたが、深みもなにもない。 目の前の相手から 「苦すぎましたか?」 と見当はずれなことを聞かれ、「そんなことありませんよ」 と無理な笑いで返しながら、昨日の楽しかった会話を思い出していた。 「いい香り、ハワイのコナコーヒーですね」 「香りでわかるんですか。さすがだな、湊さん、紅茶のスペシャリストだから……」 「コー...