恋愛小説文庫 花模様

近衛潤一郎 回顧録 ― パリの出来事 ― 1
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近衛潤一郎 回顧録 ― パリの出来事 ― 1

ピエールとの出会いを語るには、パリでの出来事に触れなければならないだろう。それは私にとって、暑さとともに思い出される忘れられない夏だった。あれは、異常な熱波がヨーロッパ各地をおそった年だった。抱えている懸案が大詰めに入り、現地に出向き指揮をとることになった。私の仕事は公にはしていないが、『外務省国際情報局 第五国際情報室』に所属する情報担当官。国際情報局とは諜報活動を行う部署で、イギリスのSIS(...
近衛潤一郎 回顧録 ― パリの出来事 ― 2
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近衛潤一郎 回顧録 ― パリの出来事 ― 2

炎天下のパリの街中を歩き回っていた自分が、なぜここにいるのか。娼館で殴られた後の記憶がないだけに、危機に備えて身構えていた。ピエールと名乗る紳士には思い当たるふしがあった。ピエール・ド・カシュ確か、フランスに”カシュ”と冠した企業があったはずだ。革命前からの名門で、フランスの中でも1・2を争う大企業のひとつだと記憶している。彼が そこの出身だとしたら敵でないのは明白だった。なにより、彼の持つ雰囲気が...
近衛潤一郎 回顧録 ― パリの出来事 ― 3
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近衛潤一郎 回顧録 ― パリの出来事 ― 3

妻のはずんだ声が聞こえてきた。「潤一郎さん 出張先から電話をくれるなんて どうしたの ホームシック?」いつものおどけた調子。 だが、決して”いまどこなの”とは聞かない。それは結婚したときからの取り決めだった。「紫子の声が聞きたくなったんだ 仕事が一段落ついたからね もう2週間も離れてる・・・」いつになく気弱な事を言ってしまう。”まぁ やっぱり寂しいのね”と、わかったような事を言う妻が無性に恋しかった。...