恋愛小説文庫 花模様

【ボレロ】 38-1 -ハーモニー-
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【ボレロ】 38-1 -ハーモニー-

4月1日、入社式にのぞむ新入社員と同じく私も緊張の朝を迎えていた。 昨日まで変わりなく過ごしていた珠貴が、今朝になり体調の変化を感じたらしく、陣痛の前兆ではないかと言い出した。  多胎児は早く出産に至るケースが多いそうで、双子を妊娠した珠貴の予定日も早目に設定されていた。 さらに早く生まれる可能性もあると言われていたこともあり、早くから入院の準備を整えていたが、その兆候は見られず今日まできたのだった...
【ボレロ】 38-2 -ハーモニー-
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【ボレロ】 38-2 -ハーモニー-

大ホール前のロビーは、緊張から解放された新入社員だけでなく、入社式に出席した人々の輪ができておりに、それぞれ歓談中である。 大勢がいるこの場で、幼い娘の縁談話を続けるつもりはないが、容赦なく断って生方相談役の顔を曇らせるのもどうだろう。 孫を引き受けた側としては、できるだけ良好な関係を保っていたい。 返事を濁したまま、次の予定の時間が迫っていることを理由に立ち去るか…… そんなことを思案していると、宮部...
【ボレロ】 38-3 -ハーモニー
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【ボレロ】 38-3 -ハーモニー

会社から走り出して間もなく、車は渋滞の列に巻き込まれた。 自然渋滞とは思えない、新年度早々道路工事でしょうかと運転席から声がして、ルームミラー越しに運転手の佐倉は眉をよせた。 間に合うだろうか…… そう思う一方で、出産には時間がかかる、まだまだ大丈夫と自分に言い聞かせる。 昼時のオフィス街は、食事へ向かう人々であふれていた。 「病院についたら、君たちは先に食事をすませてくれ。 懇親会までに会社に戻るように...
【ボレロ】 38-4 -ハーモニー
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【ボレロ】 38-4 -ハーモニー

病院の外はいつのまにか曇り空になっていた。 菜種梅雨が長引いているのか、昨日も一昨日も午後から雨で、今日も夕方から雨の予報だったが早く降り出したらしい。 顔に小さな雨粒を受けながら駐車場へ向かおうと数メートル進んだところで、前から車がやってきて止まった。 私の表情をうかがいながらドアを開けて待つ彼らへ、首を振っておおげさにため息をついてみせた。 「うちの息子たちは、まだ生まれたくないらしい。のんきな奴...
【ボレロ】 38-5 -ハーモニー
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【ボレロ】 38-5 -ハーモニー

懇親会のあと、病院へ行くよう勧める堂本へ 「仕事が終わったら行くよ」 と言い、その場にとどまった。 誕生した子どもたちに会いたい、珠貴の顔を見たいとの気持ちもあるが、珠貴が出産に全力を尽くしたように、私も与えられた任務をきちんとこなそうと思ったのだ。 若い社員との懇談の場は貴重で、できる限り彼らの話に応じたいというのも正直な思いである。 質疑応答が、いつしか討論になり、打てば響くような若い彼らの返答...
【ボレロ】 38-6 -ハーモニー
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【ボレロ】 38-6 -ハーモニー

結姫が生まれた時と同じように、珠貴が退院するまでホテル住まいと決めていた。 会社へも病院へも近い 『榊ホテル 東京』 は便利が良い。 年間契約を結んでいるこの部屋を結婚前は頻繁に利用していたが、最近は、打ち合わせ等で昼間使うことはあっても宿泊は数えるほどしかない。 久しぶりにここに泊まって目覚めた朝、家族の気配や声が聞こえない寂しさを感じていた。 今回は、少し長い滞在になりそうである。 結姫は珠貴が退...
【ボレロ】 39-1 -誠志郎 京志郎ー
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【ボレロ】 39-1 -誠志郎 京志郎ー

「ただいま」 と私へ声をかけた宗は、駆け寄った娘を抱き上げ、それからベッドに並んで寝る息子たちの顔を覗き込んだ。 「おかえりなさい。早いお帰りでしたね」 と私が言ったのは、帰宅は深夜近くになりそうだと今朝聞いていたからで、それでなくても、このところ宗の帰りは遅い。 帰宅がどれほど遅くなろうとも、着替えるより先に子どもたちの部屋にやってくる。 また寝てるのか、と寂しそうな顔にわるいと思いながら、起こさ...
【ボレロ】 39-2 -誠志郎 京志郎ー
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【ボレロ】 39-2 -誠志郎 京志郎ー

昨日までの雨もやみ初夏の爽やかな風が吹く午後、親しい友人の訪問があり、テラスで楽しいおしゃべりが続いている。 今春、屋敷内の改築の際、西角の部屋に面して造ったテラスは、宗が信頼を寄せる造園家、北園さんが手がけた庭が見渡せる私のお気に入りの場所で、この時期は紫陽花が美しい。 庭は子どもたちが安心して遊べるよう設計されており、このところの雨続きで屋内に閉じこもっていたこともあり、庭を走り回る子どもたちも...
【ボレロ】 39-3 -誠志郎 京志郎ー
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【ボレロ】 39-3 -誠志郎 京志郎ー

昼寝から覚めた誠志郎と京志郎と、横山さんも一緒にテラスに戻ってくると、結姫がかけよってきた。 さっそくベッドのふちから弟たちを覗き込んで、小さな手をのばして頬をつつく。 誠志郎と京志郎の頬をつついてあやす宗を見て、結姫も覚えたしぐさで、こうすると不思議と泣き顔が消え笑顔をみせてくれるのだった。 沢渡家の三つ子君たちと平岡家の奏汰君は、小さな子に興味は向かないのか春日さんを相手に庭を駆け回り、百々子さ...