K,Nadeshiko

恋愛小説文庫 花模様

カテゴリ風花 結婚白書Ⅲ 1/3

風花 結婚白書Ⅲ 目次

……ふと 桐原さんの顔が浮かんでくる滅多に見せない 私にだけ向けられたような笑顔と 不安げな手が私の中に オリのように沈殿しては また浮かび上がってくる彼女の存在が 私の中で次第に大きくなってゆくにつれて誰かを想い始めたときのような 初々しい感情を呼び起こした……(旧題『ゆうすげの道』)【風花】 1 ― 予感 ―      2 ― 動揺 ―     3 ― 芽生 ―  4 ― 自覚―       5 ― 共鳴 ―...

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【風花】 1 ― 予感 ―

既婚者と付き合ってみたいなんて 信じられないわ スリルを味わいたいのかしら人の持ち物を欲しがる子どもと一緒じゃない既婚者との恋愛 それは 私の常識の中には存在しない彼が現れるまでは そう思っていた……本省から転勤してくる課長達 彼らは 次のステップへ進むため 若いうちに地方勤務を経験する数年の地方勤務をへて本省へ帰り あとはキャリアの道を進む毎年 本省と地方勤務の次期赴任地として課長達が転勤してくる ...

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【風花】 2 ― 動揺 ―

昨夜の酒がまだ残っているのか ベッドからなかなか起き上がれない  気だるさが全身を覆っていた家族に邪魔されることもないし 気ままに午前中を過ごす一人暮らしの不便さと引き替えに 自由な時間を手に入れた気分だ地方赴任が決まると 先輩達が口をそろえて言った「課長といったって 向こうから見れば若造だからな 課長補佐の扱いが大事だぞ それと 地方の女の子には気をつけろよ 遊ぶのは本人の自由だが 本気になると...

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【風花】 3 ― 芽生 ―

 「手を離して……」 和史の手を軽くふりほどいた「誰かに見られたら恥ずかしいじゃない 課長にも見られたかも」 誰よりも 遠野課長に手をつないで歩く姿を見られたくなかった「なんでだよ 見られたっていいじゃないか 今さら隠すような仲じゃないし」 和史の声は 少し怒っていた しばらく黙って歩いていたが……「部屋によってもいいだろう?」 和史がたまりかねて話しかけた「今日はダメ これから実家に行くの」 「聞いて...

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【風花】 4 ― 自覚 ―

賢吾の幼稚園行事が忙しいのだと言って 4月に来たっきり 妻は一度も来ていない一人暮らしにも慣れ 出張の準備も手早くこなせるようになった金曜日には賢に会えるな……息子の写真を眺めながら独り言がでる飛行機の座席は 桐原さんと隣になった幹事役の若い職員が席を振り分けたら 私たちが余ったのだそうだ「誰と一緒でもいいよ」そう言って 彼女と苦笑いしながら隣同士の席に着いた この時期 客が少ないのか 機内は空席が...

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【風花】 5 ― 共鳴 ―

赤ちゃんって こんなにも可愛いもんなんだ昨日兄貴の家にきてから もう何度 大輝の顔を覗いただろう すやすや寝てる顔 ふにゃふにゃ泣く顔グズグズいって 和音さんを困らせてる顔 一番好きなのは おっぱいを飲むときの顔んぐんぐ言わせながら 全身のエネルギーを使っておっぱいを吸っている それから 大輝におっぱいを飲ませている和音さんの顔も好きだ人って こんなにも幸せそうな顔をするんだ大輝を見つめる目が慈愛に...

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【風花】 6 ― 抱擁 ―

 飛行機は引き返すことなく無事についた「今だけ恋人になります」 彼女が言い出した ”つかの間の恋人”飛行機の中で 私たちは疑似恋愛をしていた でも 本当に 君とそうなりたいと言ってしまいたい何を考えているんだという 冷静な自分 気持ちに素直になれよという 積極的な自分 今はまだ 冷静な自分が なんとか平静を保つ手助けをしていた「帰りはどうするの?車で来てるから送ろうか?」 彼女と ここで別れた方がい...

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【風花】 7 ― 接吻 ―

 彼の唇が私の肌に触れる体の感覚は これ以上なく研ぎ澄まされ唇が押し当てられた 一点 一点を 全神経で感じていた顎から 離れた唇は やがて私の唇に触れた今だけ すべてを忘れよう今だけ 彼のことをだけ考えていたい いまだけは……彼の唇が 吸い付くように私と重なった彼とこうして口づけたいと 心のどこかで望んでいた自分の気持ちを押し込めたはずなのに 彼への想いは募る名前を呼んで欲しい 私に触れて欲しい...

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【風花】 8 ― 告白 ―

昨夜はほとんど寝ていない明け方 少しまどろんだか それでも 朝はいつもと同じ時刻に目が覚めた目覚ましに濃いめのコーヒーを淹れる サイフォンから漂う香りが 昨夜の出来事を呼び起こした コーヒーの香りとともに蘇る 彼女の肌と唇の記憶 手に 口に 鮮明に残る感覚を忘れまいと 自分の手を握り締め 口元に押し当てた彼女の腕に抱かれながら 胸元に口づけた何もかも忘れて 思いを遂げようとした あの時 理性などどこに...

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【風花】 9 ― 思慕 ― 

 気がつくと 目が彼の姿を追っている こんなに狂おしい恋をするとは思わなかった鏡に姿が映るたびに 肩先と胸元の刻印を確かめる徐々に消えていく彼の名残り それに反比例するかのように 彼への思慕は募っていった  「たまにはお茶しない?」 水城さんから誘われた最近仕事が忙しく お互いに誘うこともなくなっていた「ねぇ 野間さんのこと聞いたんでしょ?辛いだろうけど元気を出してね貴方には もう少し大人の男性の...

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