恋愛小説文庫 花模様

【社宅ラプソディ 2nd season 】 1-1.梅ケ谷社宅に冬が来た
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【社宅ラプソディ 2nd season 】 1-1.梅ケ谷社宅に冬が来た

冬の梅ケ谷社宅は寒い、とにかく寒い。 一番冷えるのは一階の部屋で、床下や窓の隙間から冷気が入り込み、暖房が効きにくい。トイレと浴室の寒さは格別である。どちらもコンクリートむき出しの壁はひんやりとして、トイレは便座の冷たさに震え、風呂は長く浴槽に浸かってもなかなか体が温まらない。 中でも北側に建つ一棟の一階は 「梅ケ谷社宅の北極」 と言われ、部屋の中でもダウンを着るほどである。エアコンの暖房が一般的で...
【社宅ラプソディ 2nd season 】 1-2.梅ケ谷社宅に冬が来た
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【社宅ラプソディ 2nd season 】 1-2.梅ケ谷社宅に冬が来た

明日香にとってハロウィンは、さほど重要なイベントではない。 仮装して街を歩く若者の様子がニュースで流れても、「みんなイベントが好きなんだ。ハロウィンの次はクリスマスね」 と思うくらいである。 「子どもたちの行事へ、参加をお願いします」 二棟の住人である大友朱里がやってきたのは、ハロウィンを翌週に控えた日のこと。 仮装した子どもへ菓子を用意していただけないかとの頼みを、明日香は戸惑いながらも承知した。 ...
【社宅ラプソディ 2nd season 】 1-3.梅ケ谷社宅に冬が来た
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【社宅ラプソディ 2nd season 】 1-3.梅ケ谷社宅に冬が来た

大友家のおばけの飾りやカボチャのランタンは、ハロウィンの翌日にはすっかり取り払われて、クリスマスカラーの飾りがお目見えした。その翌日には部屋を囲むように電飾が張り巡らされ、それらは朱里とママ友たちの頑張りによるものである。さらに翌日、朱里の夫と同僚も参加して、足場を組んで社宅の壁面の飾りつけが行われた。それらの作業を見つめる人々から 「去年よりすごい」 「今年は頑張ったね」 と声があがり、朱里も夫...
【社宅ラプソディ 2nd season 】 1-4.梅ケ谷社宅に冬が来た
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【社宅ラプソディ 2nd season 】 1-4.梅ケ谷社宅に冬が来た

「お部屋の前からみなさんのお声が聞こえたので、話を聞いていただこうと思いまして……」ティーカップを手にした乙羽の表情は沈んでいる。 「朱里さんのお部屋まわりの飾り、素晴らしいと思いますよ。ご主人やお友達も一所懸命でしたもの。 飾りつけが出来上がるのを、私も楽しみにしておりました。でもねえ……」そこまで言うと、乙羽は困った顔でため息をついた。 「イルミネーションがはじまったころは、時計を見ながら、夕方の点...
【社宅ラプソディ 2nd season 】 1-5.梅ケ谷社宅に冬が来た
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【社宅ラプソディ 2nd season 】 1-5.梅ケ谷社宅に冬が来た

亜久里と大友家の話をした翌日の夕方、イルミネーションは定時に点灯した。 社宅壁面の大きな電飾も変わらず輝き、規模を縮小した様子もない。 買い物先から戻った明日香は、以前とは見違えるハンドルさばきでワゴン車を駐車場に止めた。 妊婦になり運転が辛そうな五月を乗せることも多くなり、すっかり運転上手になっている。 「朱里さんち、まだやってる。大丈夫かな」 ためいきまじりの明日香のつぶやきに、助手席の五月が苦笑...
【社宅ラプソディ 2nd season 】 1-6.梅ケ谷社宅に冬が来た
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【社宅ラプソディ 2nd season 】 1-6.梅ケ谷社宅に冬が来た

  佐都子が提案した社宅管理棟のイルミネーションについて、『信和会』 臨時会の翌日には会社の許可が下り、同日、社宅自治会にも承認された。 大友家の電飾ははずされ、週末には社宅住人の手で管理棟の飾りつけがはじまった。 『社宅自治会』『信和会』『子供会』 それぞれから出資があり、あらたに電飾を購入、イルミネーションのデザインは経験豊富な大友主任と朱里が中心になり行われた。 電飾の設置、配電等は技術職の...
【社宅ラプソディ 2nd season 】 2-1.年末年始は忙しい
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【社宅ラプソディ 2nd season 】 2-1.年末年始は忙しい

『小早川製作所』 の年末年始休みは、12月28日から1月7日までと長い。 『梅ケ谷社宅』 の住人は、帰省するか旅行に出かける人がほとんどで、妊婦であるため交通機関での移動が大変という理由で帰省しない坂東五月と漣の夫婦のように、社宅で年越しをする家族は少数派である。 亜久里と明日香は休み一日目は家の大掃除と片付けをして、12月29日から亜久里の実家がある埼玉に帰省した。 佐東家で元日まで過ごし、元日の夜から明日...
【社宅ラプソディ 2nd season 】 2-2.年末年始は忙しい
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【社宅ラプソディ 2nd season 】 2-2.年末年始は忙しい

大晦日、亜久里と明日香は暇を持て余していた。 「床も窓ガラスもピカピカだよ。お義母さん、私たちに少し仕事を残してくれてもよかったのに」 「俺たちにおやじの世話を頼むから、掃除を張り切ったんだよ」観劇旅行へ気軽に出かけるしのぶも、年末年始に夫を残して家を空けることを申し訳なく思ったのか、 「明日香さん、利志夫さんをよろしくお願いします」  明日香は義母に頭を深くさげられて恐縮した。 温厚な義父が義母の留...
【社宅ラプソディ 2nd season 】 2-3.年末年始は忙しい
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【社宅ラプソディ 2nd season 】 2-3.年末年始は忙しい

「さすがグリさんのお母さま、大掃除も料理も完璧に整えてお出かけされたのね。明日香さん、お正月はゆっくりできたでしょう」 「グリさんちはラクできたんですけど、うちの実家のほうは忙しくて、ずっとバタバタしてました」 「お休みのあいだ、明日香さんのご実家に長くいたんでしょう?」 「6日間です。両親は喜んでましたけど、正直いって私は疲れました。社宅に帰ったらホッとしました。狭くてもここが落ち着きます」 明日香...
【社宅ラプソディ 2nd season 】 3-1.今年の運勢大鑑定
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【社宅ラプソディ 2nd season 】 3-1.今年の運勢大鑑定

◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆『信和会』 2月度講座のご案内  運勢鑑定講座  四柱推命(南海流)講師 峰 虹蘭 あなたの運命、未来のゆくえを推察します。講座受講ご希望の方は、下記の内容を添えてお申し込みください。1, 氏名2, 生年月日3, 生まれた場所4, 生まれた時間5, 部屋番号 住所6, 電話番号7, 個別鑑定の内容 (個人的な依頼内容がありましたらお書きください)なお、個別鑑定希望者が多数の場合は...
【社宅ラプソディ 2nd season 】 3-2.今年の運勢大鑑定
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【社宅ラプソディ 2nd season 】 3-2.今年の運勢大鑑定

通常の 『信和会』 定例会は午前10時にはじまり二時間程度であるのに、二月度の講習会は、午前中は今年の運勢と基本鑑定、午後は個別鑑定が予定されていた。いつもは時間ギリギリにやってくる人も少なくないが、今日は開始時刻の30分以上前から人が集まりはじめ、会議室はすでに大賑わい。 グッチ小泉こと一棟棟長小泉京子や、家族全員の鑑定を申し込んだ大橋かなえは席の最前列に陣取って、虹子がやってくるのを今か今か...
【社宅ラプソディ 2nd season 】 3-3.今年の運勢大鑑定
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【社宅ラプソディ 2nd season 】 3-3.今年の運勢大鑑定

急にお邪魔してしまってと恐縮しながら明日香と美浜につづいて部屋に入った乙羽は、先客のふたりを見て安堵した顔をした。それから、あいた席に行儀良く座って、胸に手をおき、はぁ……と深く息を吐いた。 「虹子さんとなにかありましたか?」 玄関の声が聞こえましたと佐都子が口を開き、まだ落ち着かない乙羽に代わって美浜が答えた。 「乙羽さんね、虹子さんの営業につかまっちゃったみたいなの。階段前でやり取りが聞こえたから...