恋愛小説文庫 花模様

ボレロ 第三部
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ボレロ 第三部

                       ã™ã¹ã¦ã®å®¢ã‚’見送り落ち着いたのは深夜、ざわめきはすっかり消えて家の中は静まり返っている。寝室から続くバルコニーで冬の夜空を見上げる珠貴に近づき、凍える背中をナイトガウンにくるみ込んだ。 ・・・ 「序章 前編」 より ・・・結婚して数年、強い絆で結ばれた宗一郎と珠貴家族と過ごす幸せな時間、新たなライバルの出現そして……『ボレロ 第三部』...
【ボレロ 第三部】 -序奏- 前編
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【ボレロ 第三部】 -序奏- 前編

この年の冬の夜会 『12月の会』 は、今までで一番多くの招待客があった。私と珠貴と早苗大叔母の親しい友人たちを招く会からはじまった夜会は、年を追って盛会になっている。珠貴が中心となって夜会の準備は進められ、この日を迎えた。今夜も珠貴のホステスぶりで見事で、客はみな満足して 「次も楽しみにしています」 と嬉しい言葉を残して帰っていった。すべての客を見送り落ち着いたのは深夜、ざわめきはすっかり消えて家の...
【ボレロ 第三部】 -序奏- 後編
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【ボレロ 第三部】 -序奏- 後編

クリスマスイブの朝、ダイニングにやってきた結姫は部屋着姿だった。元気よく朝の挨拶をする娘に 「おはよう」 と返したあと、まだ制服に着替えないのかと尋ねると、「おやすみなの」「どうした。熱でもあるのか」「幼稚園は冬休みよ」一昨日から冬休みに入った、あなたにも話したのに忘れたのかと珠貴から呆れた顔で返事があった。そういえば、そんなことを聞いた気がする。バツの悪さを隠すように、結姫を膝に抱きあげた。「お...
【ボレロ 第三部】 -赤と青- 1-1
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【ボレロ 第三部】 -赤と青- 1-1

赤い服の似合うその人にはじめて会ったのは昨年の夏、東北出張の帰りに立ち寄った、フランス菓子が評判のパティスリー 『杜の蔵』 だった。甘味を好む男性だけが集う 『水一倶楽部』 から、宗が土産に持ち帰った 『杜の蔵』 の焼き菓子に魅了された私は、秋田へ出かける機会があったら、必ず立ち寄ろうと決めていた。前夜は遅くまで接待があり、ホテルに帰ったのは夜10時過ぎ、翌日は夕方までに東京に着く予定になっており、...
【ボレロ 第三部】 -赤と青- 1-2
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【ボレロ 第三部】 -赤と青- 1-2

「このタルトを譲ってくれたのが、『杜の蔵』 に無理な注文をした会社の代表だったのか」土産を楽しみに私の帰りを待っていた宗へ、紅茶を淹れながら今朝の一連の出来事を語った。「守倉さんは富樫さんへ、私に譲った数だけお届けしますとおっしゃったのよ。でも、富樫さんは 『杜の蔵』 は地方発送はしないはずだから、次の機会にいただきますって遠慮されたの。そんな気くばりのできる方が、強引な注文をするとは思えなくて」...
【ボレロ 第三部】 -赤と青- 1-3
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【ボレロ 第三部】 -赤と青- 1-3

美那子さんとともに 『ミクモ』 を訪れたのは夏の盛り、木々を抜ける風は爽やかで熱帯夜が続く東京の暑さを忘れる涼しさだった。街中にあった工場を郊外に移転したのは昭和の終わり、夫の代で会社を大きくしたのだと、誇らしげに語る会長の三雲幸代さんの案内で工場内に入った。肌に直接触れる製品を扱う作業場ということもあるが、工場はどこも掃除が行き届き、床は光るほど磨き込まれ、道具類はきちんと整理されている。トイレ...
【ボレロ 第三部】 -赤と青- 1-4
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【ボレロ 第三部】 -赤と青- 1-4

三雲希さんから届いた手紙は、その姿を隠すように 『ミクモ』 の社用封筒の中に入っていた。バラの透かし模様がほどこされた薄紅色のレターセットは華やかで、抑えた色の服を好む希さんの印象と乖離している、そんな気がした。これが、赤い服の似合う富樫紅さんから届いたものならうなずけるのにと思いながら、ペーパーナイフで封を切った。封筒とそろいの便箋に並んだ文字は印字ではなく、希さんの直筆だった。私が送った葉書を...
【ボレロ 第三部】 -赤と青- 1-5
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【ボレロ 第三部】 -赤と青- 1-5

希さんと会ったのは、土日と成人の日が続く三連休の前日、二日前に降った雪が残っていたこともあるが、東京の冬は案外寒いですねと、希さんはビル風の冷たさにコートの襟に首をすくめた。今日は 『SUDO』 本社を案内したあと、食事をとりながら希さんが意欲的になれるよう話をするつもりである。「こちらのワンピース、雑誌の特集記事を読みました。モデルさんがとても素敵で、あっ、ワンピースももちろん素敵です……」商品の展示...
【ボレロ 第三部】 -舞台裏- 2-1
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【ボレロ 第三部】 -舞台裏- 2-1

国内外でホテル事業を展開する 『狩野グループ』 の本拠地ともいうべき 『榊ホテル東京』 に法人契約の部屋を持ったのは、私が副社長に就任した年だった。ここは私の第二のオフィス兼会議室であり、ときには人目を避けて会いたい相手との密談の席にもなる。この部屋で水面下の交渉を重ねて、仕事の成功につながったことも少なからずある。当時、大学からの友人である狩野豪が副支配人を務めており、なにかと融通が利くことも ...
【ボレロ 第三部】 -舞台裏- 2-2
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【ボレロ 第三部】 -舞台裏- 2-2

あるパーティーの招待状を手に入れたい、なんとかなりませんかとコウに相談されたのは昨年末、そのときもこの部屋で会った。投資家が集まるパーティーに潜り込む目的が気になるところではあるが、それについては聞いていない。目的を尋ねたところで、コウが簡単に口にするとは思えない、聞くだけ無駄だろう。パーティーの主催者は、大学時代の友人が役員を務める会社とわかり、友人に連絡すると二人分の招待状を送ってくれた。最近...
【ボレロ 第三部】 -舞台裏- 2-3
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【ボレロ 第三部】 -舞台裏- 2-3

「興味深い話を聞かせてもらった。椎名のように優秀な奴がいると、社内の風通しが悪くなるね。気が利きすぎるのも、考えものだなあ」「どうして風通しが悪くなるんですか。椎名さんは、気難しい社長と社員のあいだを取り持っているんですよ」批判的な感想を述べた狩野へ、コウは強い口調で反論した。擁護したくなるほど、椎名暖は魅力的な人物ということか。「取り持っていると言えば、そうかもしれないが、社員は椎名の指示なしで...
【ボレロ 第三部】 -舞台裏- 2-4
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【ボレロ 第三部】 -舞台裏- 2-4

葬儀は盛大にするようにとは、須藤の祖父の希望でもあった。断じて自己顕示欲から出た言葉ではない。葬儀に多くの人が集まることで交流が活発になる、そのつながりを今後の事業に生かすようにということだ。いかにも創業者らしい発想である。そして本日、誰もが出かけたくなるような、抜けるような冬の青空のもと本葬がおこなわれている。喪主を務める須藤の義父は、『SUDO』 の会長兼社長の立場と、また、前会長の息子として弔問...