恋愛小説文庫 花模様

『トライアングル』 1 -予感- (K.撫子)
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『トライアングル』 1 -予感- (K.撫子)

   泳いだあとの滑らかな体はサラサラとして、手のひらに気持ち良くなじみ、うつぶせの背筋から肩にかけて程よく引き締まった筋肉が、美しさをさらに引き立てている。背広の下に、こんなきれいな肌が息をひそめているなんて、誰が思うだろう。充分に味わい尽くしたはずなのに、お気に入りの肌を目の前にすると、私の心は嬉しさで躍りだす。「そんなに気に入った?」「えぇ、とっても……」肌の感触を楽しむ私の手を彼...
『トライアングル』 2 -恋情- (nimorin)
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『トライアングル』 2 -恋情- (nimorin)

  『私は誠実な人と恋愛がしたいだけ アナタは対象外なの わかってる?』真緒に言われた言葉が 心の中でくすぶっている僕の望みを あっさり一蹴したその言葉は二人の位置関係を明確にしておきたいという彼女の率直な気持ちなのだろう目を閉じると 強情な口元も柔らかく結ばれて あどけない印象に変わる肌を這う唇に耐える吐息が 抑えきれない衝動でいつしか囁くような深い声になっても 僕の名前を呼ぶことはないプ...
『トライアングル』 3 -疑惑- (ハナリン)
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『トライアングル』 3 -疑惑- (ハナリン)

 最初に「女」の存在に気づいたのは、征の背中に残された小さな爪の痕だった外はまだ深い闇の中サイドテーブルに置かれた淡いライトだけが、「それ」をくっきりと浮かび上がらせている一瞬にして全身から血の気が引き、もはや背中から目を離すことができない湧きあがる疑惑その爪の痕から浮び上がる女のシルエットと、親友からかかってきた一本の電話が脳裏で激しく交差した征がジムから女と寄り添って出てきた  と、遠慮が...
『トライアングル』 4 -嫉妬- (ハナリン)
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『トライアングル』 4 -嫉妬- (ハナリン)

   朝刊の投げ込まれる音で、浅いまどろみから目覚めた半分開いたままのカーテン越しに、外の景色を焦点の合わない目で見つめる夜半から降り出した雨は、いつの間にか柔らかい霧にその姿を変えたようだ身体が重い・・・子犬のように丸まって眠った肢体の関節がキリキリと疼いているブランケットに包まったまま気だるく一つ寝返りを打ちそして、征の為の枕に手を伸ばした触れた瞬間、微かに届いたのは馴染んだ煙草の...
『トライアングル』 5 -煩悶- (nimorin)
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『トライアングル』 5 -煩悶- (nimorin)

   隣で 美穂子が安らいだ顔で眠っているきれいに整えられた眉 半分枕に埋もれた白い頬と伏せられた長い睫毛が 目を惹いた少し緩んだ口許が笑っているように見えるのは 自分が弄した策への賞賛か?『おかえりなさい…幸せになりましょうね』眠ったふりを続けていたが 耳元でささやかれた言葉と背中に食い込む爪の痛みに憎悪の深さを思い知らされる雨の中に消えて行く美穂子の姿を怒りの目で追う僕を真緒は「美し...
『トライアングル』 6(終) -道標- (K.撫子)
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『トライアングル』 6(終) -道標- (K.撫子)

  一年という時間の中で、私はいろんなものを得ながら失いもした。まためぐってきた華やかな街並みを見ながら、穏やかな気持ちでいられるのは、 誠実で、私だけを見つめてくれている男性がいるから。「少し早いけどクリスマスプレゼント」「ありがとう。ふっ……男性に贈ってもらうのって、やっぱり嬉しいわね」「なぁ、考えてくれたかな……」「いまのままじゃダメなの? 結婚っていろいろ面倒でしょう。  それ...