恋愛小説文庫 花模様

【花の降る頃】 16 ― 自覚のとき ― 後編
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【花の降る頃】 16 ― 自覚のとき ― 後編

翌日 山崎部長から夕食に誘われ 昨日手に入れたワインを一本持参した。子どものいない部長は 2ヶ月の長期出張に妻を同行していた。夫婦だけの暮らしとは聞いていたが 互いに言葉を掛け合い 仲の良い様子が伝わってきた。「夫婦円満のコツってありますか」「そうねぇ・・・常に相手に関心を持って 必要以上に束縛しないことかしら ねぇアナタ」「うん それに尽きるかもしれないね」「それって 間逆じゃありませんか?」部...
【花の降る頃】 16 ― 自覚のとき ― 前編
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【花の降る頃】 16 ― 自覚のとき ― 前編

胸の奥に灯った想いを消し去る難しさを 圭吾は痛切に感じていた。仕事に没頭しているときはまだいい 一息ついたおり また 宿舎の自室に戻ると整理できない さまざまな想いが圭吾の心に浮かんできた。 金森志朗から誘いがあったのは金曜の夜。今週は自宅に帰る気にもなれず 週末を何もない山間の宿舎の一室で過ごそうと決めたときだった。こっちに帰って来ることはないのか たまには顔を見せろ 田舎に引っ込んでると干から...
【手のひらの幸せ】  ― 愛すべきは…… ― 2
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【手のひらの幸せ】 ― 愛すべきは…… ― 2

たまに吐き気がするらしいが その他つわりらしい症状はほとんどなく 円華は普通に仕事を続けていた意外なことに 円華の体の変化に誰も気がつかない「誰もオメデタ? って聞いてくれないの 不思議でしょう? お腹だって少し膨らんできたのにね」「着こんでるせいじゃないか? 薄着になればわかると思うけど」ソファにゴロンと寝転がり 風呂上りの寝巻きだと 少しだけ目立つお腹を女房がさすっているそばに行って一緒に腹に...
【手のひらの幸せ】  ― 愛すべきは…… ― 1
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【手のひらの幸せ】 ― 愛すべきは…… ― 1

嬉しい報告を持って女房の実家に向かうお義父さんの喜びは予想以上で 今夜は飲み明かすのかと覚悟していたが 俺を相手に酔いも早く 嬉しそうな顔をしながら居間で早々に寝てしまった「お父さん 待ちに待った知らせだったもの 要さん つき合わせてごめんなさいね」「いいえ 俺も嬉しいですから」真っ赤な顔をして寝てしまったお義父さんを抱え 寝室に運ぶ俺に お義母さんが申し訳なさそうに謝る飲みながら よくぞやったと...
【手のひらの幸せ】  ― 気になるアイツ ― 3
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【手のひらの幸せ】 ― 気になるアイツ ― 3

円華から 会社の後輩の出産祝いに一緒に行って欲しいと言われ 秋の一日 ドライブを兼ねて遠出をした初対面の俺が一緒でいいのかと思ったが 彼女がどうしても俺に会いたいと言っているとかでなかば強引に連れて行かれた「どうしても要に会いたかったんだって 私がどんな人と結婚したのか すごく興味があるらしいわよ」「ふぅ~ん 人のダンナがそんなに気になるのかなぁ」「8歳も年下ってのが とっても気になるみたい 彼女...
「フィラルデルフィア美術館展」「大ロボット博」
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「フィラルデルフィア美術館展」「大ロボット博」

  ジョアン・ミロの 「月に吠える犬」 先日、上野の東京都美術館へ 「フィラルデルフィア美術館展」 を観に行ってきました!上野駅に下りて歩くこと10分……あれ? ここはどこ??話をしながら歩いていたら、国立博物館まで行ってしまい(笑) 目的の美術館はずーっと後方 (~_~;) 前日ブログで「上野の森で迷ったりして…」って書いたら、本当に迷ったぁ~~@@いつもは通らない道を通り、美術館の裏を通り、紅葉した木々...
【手のひらの幸せ】  ― 気になるアイツ ― 2
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【手のひらの幸せ】 ― 気になるアイツ ― 2

まだ暗いうちにマンションを出発し 対向車のほとんどいない海岸線をひた走る助手席には 釣り人になりきった円華が楽しそうな顔をして座っており真夜中に起きだして作ったという朝食と昼食の入ったバスケットが 後部座席でガタガタいっていた「本当に一緒に釣る気?」「そうよ! だからこうして服も揃えたんじゃない いっぱい釣って今夜のおかずにするの」「ヤル気満々だねぇ 最初っから大漁を狙うところが円華らしいや」「い...
【手のひらの幸せ】  ― 気になるアイツ ― 1
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【手のひらの幸せ】 ― 気になるアイツ ― 1

今週は家に向かう足取りが軽いマンションの玄関ホールで これから塾へ行くという中学生に 頑張れよと声をかけエレベーターの中で会ったご近所さんに 愛想よく挨拶をする玄関ドアを開けると ”おかえりなさい” と エプロン姿の円華が笑顔で迎えてくれるのだすでに夕食の準備が出来ていて ご飯? それともお風呂?どこかで聞いたドラマの台詞のような会話が交わされるキッチンに立つ円華の後ろから肩を抱いて 今日のメシは何...
 【Momentary】
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【Momentary】

煙幕に身を隠しその場を立ち去るつもりだった偶然に居合わせた事件現場 誰かに見つかるのではないかと不安を感じながら 立ち上る煙と爆薬の臭いがもたらす誘惑に勝てずにいた これ以上の長居は我が身を危険にさらす人ごみに身を置き 足を進める方角を模索していた  「こっちよ 振り向かないで 私の背中だけ見てついて来て」 「驚いた……アンタから接触するなんて初めてじゃないか? 相変わらず忙しそうだな」 「呑気なこと言...
【Misty】
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【Misty】

店の帰りに この場所に寄るのが習慣になっていた古ぼけた電話ボックスは 中に入ると外界から切り離されたような安堵感がある車を路肩に止め 本部に定時の連絡をいれた「今回は接触だけでいい 絶対に無茶をしないように相手の身体的特徴 クセ 声の抑揚 なんでもいい 観察するだけにとどめて欲しい追い詰めるようなことは決してしないように いいね それから君のいる近くで 政府高官の自宅が爆破された 気をつけるように...