近衛潤一郎 回顧録 ― パリの出来事 ― 1



ピエールとの出会いを語るには、パリでの出来事に触れなければならないだろう。

それは私にとって、暑さとともに思い出される忘れられない夏だった。

あれは、異常な熱波がヨーロッパ各地をおそった年だった。

抱えている懸案が大詰めに入り、現地に出向き指揮をとることになった。

私の仕事は公にはしていないが、『外務省国際情報局 第五国際情報室』に所属する情報担当官。




国際情報局とは諜報活動を行う部署で、イギリスのSIS(イギリス情報局秘密情報部)やアメリカのCIA(中央情報局) イスラエルのモサド、フランスのDGSE(対外治安総局)などと同じような役割を担っている。

実際に存在する部署だが、公に出来ない仕事のため、ある名称を隠れ蓑に存在していた。

我が近衛家では、代々情報関係の職に就く者を輩出している。

日本における情報機関は6つある。


 内閣情報調査室

 内閣保安保障室

 公安調査庁

 防衛庁防衛局

 警察庁警備局

 外務省国際情報局


以上の機関に、必ず近衛家の人間がいる。

代々引き継ぐことで、記録に残らない重要な情報が伝承されてきた。






急な出張で、それも、いつ帰れるかわからない任務のため、妻を実家に帰し、義父にだけは本当のことを打ち明け日本を発った。

今年の8月のパリは想像を絶する暑さで、人々は皆バカンスに出かけ 街ゆく人はまばらだった。

いつものパリなら、日本人にとっては耐えられない夏ではない。 

クーラーがなくても夏をしのげるほどだ。

それが今年はどうしたことか、ヨーロッパ全体を熱波が襲い、異常警報が発令されていた。

先に潜入していた、部下の守橋と連絡がとれずあせっていた。 

モンマルトルの南区に潜む現地の情報屋と接触をとる手はずを整えていた私は、 

いつもならするはずのないミスを犯した。

部下の身が危険にさらされている・・・

そのことが私の判断力を鈍らせていた。

路地に入ったあたりから尾行されていたようだ。

このことは 後にピエールから聞かされた。

この辺りは娼婦館が軒を連ねている。

世の中で一番古い職業と言われるのが王族と娼婦だが、

世界中どこへ行っても、その類の店はある。

娼館といっても女性だけではない、偏向趣味の店もたくさんあり、

その一軒が、情報屋との待ち合わせになっていた。

店内は女性と見紛う男ばかり。

次々と私の横にやってきては、私と交渉を始める。

いくらここで待ち合わせだといっても、彼らには通用しなかった。

そのうちの一人が、強引に私を口説き始めた。

なぜか・・・そう、なぜか私は、その方面の男性に好かれるようだ。

私にはまったくその気はない、その気がないどころか大変迷惑だ。

私はいたってノーマルだし、妻だっている。

無理やり部屋に連れ込まれそうになり、もみ合っていると、いきなり背後から襲われた。 

いくら武道の心得がある私でも不意打ちにはかなわない。

やがて抵抗する力もなくなり、とどめの一撃を食らった後気を失ってしまった。

気がついたのは、それからどれくらい後だったのか、今でも思い出せない。

ただ、目を開けると、ひげを蓄えた紳士が私の側にいた。



「気がつきましたか、目は見えますか? 痛いところは?」


矢継ぎ早に質問し、側にいた医師らしき男性に話をしている。

私はあることに気がついた。

その紳士は日本語で話しかけたのだ。それもかなり流暢なしゃべりだった。



「あの・・・貴方はいったい・・・それに ここはどこだ・・・」


「貴方は あなた方が追いかけている一味に襲われたんですよ、近衛潤一郎さん」



相手が私の名前を知っていることで、警戒心を一層強めた。



「私の名前は、ピエール・ド・カシュ パリ郊外でワイナリーを経営している者です」



それが 私とピエールの出会いだった。






                            コラージュ by vivistar

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