【ボレロ】  23   - audace - オダーチェ (大胆に) 後編



裏庭には、我が家に出入りする人々のために建てた小屋がある。

作業所と呼んでいるが、仕事の合間に休んだり食事をしたりできる所で、煙草を好む人も多いことから喫煙所にもなっていた。

小さい頃、作業所のそばにいくときつい煙草の匂いが漂い、子供心に近寄ってはいけない場所なのだと思ったものだ。

普段も滅多に行くことはなく、自分の家の敷地ながら何年ぶりかで足を踏み入れる場所だった。

小屋に近づくと二人の男性の背中が見え、それぞれの指先から薄く煙が立ち上り、喫煙中であることがうかがえた。 

一人は宗であることに違いないが、もう一人は……

まさか、そんなはずはないと思いながら、見慣れた背中からたどり着いた顔は禁煙を言い渡されているはずの人。 

宗と並んで座っているのは父だった。

体調を崩してから医師に禁煙を言われ、自らも煙草は控えていたはず。

自制心の強い人で、いったんこうと決めたら何事もやり遂げる、そんな人だと思っていたのに、こんなところで隠れて吸っていたなんて、父の意外な顔が見えて、そこではっと思い当たった。

だから北園さんは言いにくそうに私に言ったのかと……

何を話しているのか真剣な面持ちで、時々双方ともに頷きながら低い声が漏れ聞こえてくる。

けれど私のこの位置からは話の内容までは聞き取れず、もう少し近づけないものかと小屋の側面に回り込んだ。

”動き出すときがきたようだ” 

そう言っていたのはこのことだったのか。

正攻法が無理なら他の方法でいこうと、こんな手を思いついたのだろうか。

仕事以外で父に会うのは困難だ、ならば誰かの手引きでパーティ会場に入り込む。

初めて会う人間も多いこんな場所では誰も宗の存在を疑わず、父も警戒することなく話ができるというもの。

宗の大胆さに呆れながらも、驚き、そして嬉しかった。

それにしても、事前に一言私に相談してくれても良さそうなものなのに、数日前に会った 『割烹 筧』 ではそんな素振りはまったく見せなかった。

そういえば、あのとき最新ジュエリーと一緒に、パーティーの出席者の情報を渡してくれた。

断るのに役に立つだろうからと渡されたそれには、出席者の詳細なデータがのっていた。

あのときすでに今日の事を決めていたに違いない。

二人のそばに近づきながら、私は宗がどのようにして父に話をしているのか非常に気になり、 

次第に聞こえてくる声に私は耳を澄ませた。



「霧島さんの条件は以上のとおりです。いかがでしょうか」


「ウチとしても申し分ありませんね。それにしても、このようなお気遣いをいただけるとは、こちらとしては願ったりですが、恐縮もしております」


「いえ、私も仲立ちとしての役目も果たせたようで安心しました。 

先方には、須藤社長のお気持ちをお伝えいたします」



霧島さんといえば、今日おいでになるはずの方だが、彼はその方の代理ってこと?

聞こえてきたのは私と宗のことではなく仕事に関するもので、それもある内密の取り引きの内容だった。



「こちらこそ、近衛さんには感謝しております。本来ならしかるべき席を設けてお礼を……」


「どうぞお気遣いなく。霧島君のおかげて須藤社長とこうして親しくお話できました。感謝しております」


「なんの私こそ、まさか近衛さんのご子息にお会いできるとは。 

先代の社長がご健在の頃は、何度かご一緒させていただきました。

父とは趣味を通じて通い合うものがあったそうですが、私も少々嗜みまして」


「そうでしたか。父はあまり興味がないようですが、私は惹かれるものがあります。今度はぜひ、そのお話を」


「願ってもない。では、次はぜひ……」 



息を詰め二人の会話を聞いていたが、父が立ち上がったため、物陰に体をピタリと寄せ宗と互いに礼を交わし立ち去るまで、そのままの姿勢で立ち続けた。



「もういいぞ……珠貴、出て来いよ」



宗の言葉に驚き、私の体はびくついた。

壁に張り付いた体をはがし、おろるおそる足を進め、彼の顔が見える位置まで体を動かした。



「どうしてわかったの?」


「そのガラスに映ってた」


「えっ、では父にもわかって……」


「それはないはずだ。知ってたら声をかけるだろう」


「ねぇ、どうしてここにいるの?」




問い詰めるつもりで宗を追いかけてきたのに、私の声は自分の気持ちに反してのんびりとしたものだった。

それには答えず、ニヤリと口角を上げると、私の手首を掴んで小屋の中に引き入れた。



「どうしてかって? 話せば長くなる。夜にでも話すよ。とにかく君の父上にお会いできた」


「父はアナタにとってどんな印象だった?」



壁に体を預け新たな煙草に火をつける。

私へも一本どうかとシガレットケースを差し出したが、今日はやめておくわと断った。 



「経営者として、真摯に事業に取り組まれている姿が伝わってきたよ。

小手先や小細工の通用しない人だということもわかった。正面から向き合うしかないね」


「ありがとう……父のこと、そんな風にみてくださったのね。嬉しいわ」



父と私はいつも多少の距離をおき、親子にしては淡白な間柄だった。

妹のように甘えることもなく、父も私を甘やかさない。

どちらかといえば反発して育ったのかもしれない。

だからといって父を疎ましく覚えることはなく、これが私たち親子の距離なのだ。

宗が父を好意的にとらえてくれたことに、私は安堵していた。



「父と娘は似るそうだが、本当だな」


「私と父が似ているというの? 似てないわよ……」



右手でシガレットケースを開けては閉め、閉めては開ける動作をくり返している。

まるで、君が贈ってくれたケースを使っているよ、と示すように、開け閉めの音がパチンパチンと小屋に響いていた。



「似てるよ、気性がそっくりだ。真っ直ぐでぶれない。俺が好きなところは、親父さん似だったんだ」


「好きって言ってくれたの、初めてね」


「そうだったかな……」


「そうよ」



すっと唇に触れ離れると私の好きな顔が微笑み、煙草を足元へと落とした手が頬に触れる。

苦味を帯びた唇が私を捉え、ゆっくりと口元をほどいていく。

遠くから微かに響いていた声も耳に入らないほど、神経のすべては宗に向いていた。


ふいに動きの止まった彼へ不可解な顔をすると、口に人差し指をあて、外を見ろと目が促した。

聞こえてきた声に私の体は静止した。 



「珠貴さん、どこですか。珠貴さん」



櫻井さんの声だった。


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12 Comments

撫子 s Room  

No title

ゆきさん

>やっぱりいけずのなでしこしゃんだぁ~(;一_一)

えへへ・・・ゴメンねぇ~
長くなるので、ここで続く・・にしちゃった^^;

次回、宗一郎が活躍するはず!
待っててね!!

2010/03/16 (Tue) 16:16 | 編集 | 返信 |   

ゆき☆  

No title

こんばんは(^O^)/

やっぱりいけずのなでしこしゃんだぁ~(;一_一)

こんなところで終わらせてるよ・・・

宗一郎、頑張るんだぞぉ~

2010/03/14 (Sun) 19:48 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

natusonaさん

宗一郎と珠貴がいるところに、なぜ櫻井が来たのか!
不思議でしょう?
でも、これには訳が・・・^m^(次回わかります~)

珠貴の父親に接近した宗一郎
宗の策略か、そうでないのかも次回 (って、全部ナゾのままでごめんなさーい><)

>男性のあまり細やかな所を見せ付ける櫻井は墓穴をほるのよ!

そうそう!
女には、特にそんな点がみえると鼻につきますね。
桜井君のポイントは減点かも。

次の更新もキリ番です。
いっぱい遊びに来てくださいね^^

2010/03/14 (Sun) 07:01 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

eikoちゃん こちらにもありがとう^^

宗一郎、動き出しました!
が・・・須藤家のパーティーにもぐりこむなんて(笑)
そうそう、涼しい顔をして策士なの^^v

「近衛の若」っていいでしょう!
職人さんから呼ばれちゃうところが彼らしいかな~と。

北園さん、”近衛の若”が気に入った様子です。
大きなオウチだと、出入りの人も多いのでしょうね。

>さぁ…櫻井くんをどうやって追い払うのか・・・

それは次回ね!直接対決なのか、はたまた・・・
また遊びにきてね~!

2010/03/14 (Sun) 06:56 | 編集 | 返信 |   

natusona  

No title

なでしこさん、今晩は~~

如何して櫻井さんが 二人のところに来るの?
匂いを嗅ぎつけたのかしら~~

でも、さすが宗一郎ね、お父さんとこんな所で、会って印象をうえつけるなんて~~~

男性のあまり細やかな所を見せ付ける櫻井は墓穴をほるのよ!
そのてん、年配の良い味を出している植木職人の北園さん、良いわね~

次回は 4月半ばごろかな~~
待ち遠しいわ!

2010/03/13 (Sat) 21:33 | 編集 | 返信 |   

eiko1215ada  

No title

おはようございます^^
いよいよ宗が動き出しましたね!
直接、自分の人となりを、珠貴パパに解ってもらおうなんて…
涼しい顔して、やっぱり宗は策士だわ~(〃▽〃)

「近衛の若」…この呼び方も気に入っちゃいました^m^

北園さん…人を見る目のある方が、太鼓判おしてくれて…珠貴も心強いですね^^
さぁ…櫻井くんをどうやって追い払うのか…なでしこちゃん、楽しみにしています~

2010/03/13 (Sat) 08:56 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

あきちんさん

ドリンクを持った男・・・きっととぼけた顔をして庭を眺めてたでしょうね(笑)

北園さん、大勢の職人をつかっている経営者でもあるので、彼の目は確かです^^v
(櫻井くんの企みもお見通し)

>また味方ができたね。

そうですね、珠貴と宗一郎には力強い味方がいますから~^^

2010/03/12 (Fri) 23:26 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

faustonneさん

faustonneさんも予想通りでしたか (やっぱりそう思いますよね^^;)
どうやって会場にやってきたのか、
なぜ珠貴の父と話をしていたのかは、次回明らかに!

2010/03/12 (Fri) 23:22 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

miharuruさん

のんびりムードの宗さんに騙されなかったのね~(笑)
予想通りでしたか!
miharuruさんのニンマリ顔が目に浮かぶ・・・
(どうやってパーティーに忍び込んだのかは次回^^v)

珠貴の父との対面はどうだったのでしょう。
彼のことだから、媚を売ることはしなかったと思うけどね。

一方櫻井は、ソツなく・・・
このひとひは、おばさまというブレーンがついてるので!

>また、いいところで続くのね・・・。

あはは^^;ごめんなさ~い
次回は、最後の場面からの続きになりますので。

2010/03/12 (Fri) 23:20 | 編集 | 返信 |   

あきちん  

No title

ドリンク片手に庭を眺める男・・・やっぱり宗だ(笑)。それにしても北園さん、人を見る目があるねぇ。櫻井さんは薄っぺらな人だと見抜いたし、宗を捕まえるべきだって言ってくれたし。また味方ができたね。

2010/03/12 (Fri) 17:16 | 編集 | 返信 |   

faustonne  

No title

お早うございます。

やっぱり、いらっしゃいましたね。きっと来られていると思ったのですよね。でも、どうされるのだろうと。お仕事の話で父上にお近づきになるとは。なるほどなるほど。でした。

2010/03/12 (Fri) 09:45 | 編集 | 返信 |   

miharuru  

No title

アンニョン~^^

何か行動を起こすのかと思ったら
何もなかったかのように のんびりムードの宗さん。
もしかして、何か企んでてパーティーに・・・と読みながら
予感が当たって、ニマッ ^m^
珠貴との関係を発展させるならば
正攻法~正面突破は効果的かも。
仕事絡みとはサスガです!
珠貴の父との初対面は、好感を持ってもらえたかな~☆

その前に、自称婚約者(爆)を卒なくこなす
櫻井さんと対決でしょうか!?
また、いいところで続くのね・・・。

2010/03/12 (Fri) 01:08 | 編集 | 返信 |   

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