【ボレロ】  24   - vivace - ヴィヴァーチェ (活発に) 後編 



役員にはそれぞれ個室が与えられている。

社長である父の部屋ほどではないが、私にも会議室も備えた一室があてがわれていた。

仮眠ができるソファとミニキッチンもあり、徹夜の仕事もこなしてもらうと言われているようなものだと副社長就任時に思ったものだった。

遅い昼食をとる平岡は、早く話を聞きたいのかせわしく箸を動かしていた。 



「それで、僕は何をすればいいんですか? パーティー会場で有力な情報でもありましたか」


「有力といえばそうだな。パーティー会場にいると、人の流れがよくわかるな。

『SUDO』 と縁続きになりたい、事業関係を結びたい、そんな連中ばかりだ。意外な関係も見えてきた」


「先輩、春の庭を見ないで、人間観察をしてきたんですか」


「もちろん庭も見た。庭を見ながら造園業者の親方と親しくなってきた。あと、厨房スタッフとも話ができた。

堅実な須藤家に仕える彼らだけあって、さすがにうかつな発言はなかったが、世間話は嫌いではなかったよ。

彼らの情報や意見は侮れないね。たかが世間話だが、それにかなり核心を突いていた。 

なぁ、可南子さまと呼ばれる人物は、確か珠貴の叔母だと思ったが」


「ちょっと待ってください」



植木屋の親方が、可南子さまには気をつけろと教えてくれたと告げると、それは聞き捨てなりませんねと平岡はニヤリと笑いながら、以前調べた須藤家の調査書を引き出し会社組織図を指差した。 



「可南子さんというと……専務夫人ですね。夫の香取専務とともに、かなりのやり手だと言われています。

暫定的ですが、『SUDO』 の次期社長は、現社長の弟でもある常務が継ぐことになっているようです。

それも珠貴さんが引継ぐまでですが、それまでは会社の実権が移りますからね」


「ふぅん、なるほどね。専務はいつまでたっても専務なのか。 

それが珠貴の婿の後ろ盾になれば、力をふるうこともできると踏んだんだな。

そうか、あの女性がそうだったのか」


「おそらくそうでしょうね。で、その可南子さまには誰がついているんですか」


「櫻井だ。櫻井祐介のそばについて、甲斐甲斐しく世話を焼いてたよ」


「それはまた……パーティー会場で、彼らを見る先輩の苦虫を潰したような顔が見えるようですね」


「ふん」



パーティー会場もそうだが、休憩所に現れた櫻井の姿を思い出し胸のあたりがムカついてきた。

平岡が、またも面白そうに私を見ていたが、コイツの前で気取ったところで何もかも知れている仲だ。

俺は機嫌が悪いのだと、おおげさに不機嫌そうな顔をした。 



「その様子だと、相当頭にきてますね。わかりました。 

香取専務及び夫人の香取可南子さまと、櫻井の関係を明らかにすればいいんですね。

それと……他にもありますね。どこが 『SUDO』 に接近したがっているのか教えてもらえませんか。 

そっちも調べてみます」


「専務と櫻井の関係は俺が調べる。平岡は他の招待客の方を頼む。ウチと関係のある取引先も多い。

相手の動向を知っておきたい。仕事の合間にできるときでかまわないから頼む」


「そうはいきませんよ。我々の事業にも大いに関係のあることですから最優先で調べます。 

もちろん、他の業務に差し支えない程度にですが」



褒美、忘れないでくださいよと念押しをする平岡に、 

「蒔絵さんと一緒に休暇を取れるようにしよう。二日間の出張扱い付だ。どうだ、これなら文句はないだろう」 

そう答えると、それは嬉しいですね、俄然やる気がでてきましたと、調子のいいことを言っていた。

珠貴には電話で、今日の首尾を話して聞かせるつもりでいたのだが、彼女の声を聞いた途端 「これから出てこられないか」 と聞いていた。



『どこに行けばいいの?』


『いいのか?』


『いまさらいいの? なんて聞かないで。誘っておいて』


『ふっ、そうだな。じゃぁ、俺のマンションに』


『わかりました。一時間ほどしたら伺います』



言葉通り一時間後に現れた珠貴は、玄関ドアを後ろ手で閉めると私に向かって飛びついてきた。

抱きつかれた腕に触発され、唇をむさぼるように合わせる。

出会いの挨拶もなく、ねぎらいの言葉を発する間もないほど、しっかりと抱きあい唇を合わせ続けた。

このとき、おそらく二人の脳裏には同じ映像が浮かんでいたのだろう。

ガーデンパーティーの会場に珠貴の姿が見えず探しに来たのか、休憩所の中で息を潜めている私たちの耳に聞こえてきたのは、櫻井祐介の声だった。

まるで私たちが小屋の中にいるとわかっているように、その場から立ち去ることなく、「珠貴さん、どこですか」 と呼び続ける声に、珠貴は私の腕を放し小屋の外へと出て行ったのだった。



「こんなところにいたんですか。北園さんの息子さんが、珠貴さんなら裏庭だろうと教えてくれたので」


「さっきまで父もいたんですよ。中の片づけをしていたもので」


「そうですか……今日の主役は珠貴さんです。みなさんお待ちですよ」


「えっ、ええ、すぐに行きます。櫻井さん、お先に……」


「その前に教えていただけませんか。彼がなぜこの場所にいるんですか。 

パーティーの招待者じゃなかったはずだ」


「彼って」


「近衛宗一郎ですよ。まさかあなたが招待したってことは……」


「どうして私がそんなことをするんです」


「さあ、どうしてでしょうね。何となくそう思っただけです」



緊迫した状態である事は、小屋の中にいる私にも空気が伝わってきた。

なぜ私がパーティー会場にいるのか、櫻井が珠貴の差し金だと考えたということは、私と珠貴の関係を彼は知っていると見ていいのではないか。

壁に身を寄せ息を殺し、反対側のガラス戸に映った彼らの姿を凝視しながら、私は二人の会話に耳をすませた。  



「彼は、この場に一番ふさわしくない人物ですからね。

彼自身が後継者であることは、あなただってよくご存知のはずだ」


「ええ、良く知ってますわ。彼は近衛家の総領ですもの、私と同じ立場の方です。 

知っているからこそ、私が近衛さんをお招きするはずがないではありませんか。

どうして今日おいでになられたのか、不思議に思っていたところですから」


「そうですか。僕の思い過ごしだったようですね」


「いいえ、わかっていただければ、それで……」


「では、あらためて言わせてください。珠貴さん、僕との将来を考えていただけませんか」


「いまさらそのようなことをおっしゃらなくても、アナタには可南子叔母さまがついていらっしゃるんですもの。 

父もそのつもりでしょうから、私の意向など確かめなくても、櫻井さんの思うとおりに進んでいくはずです」


「僕は、あなたの気持ちが大事だと思っています」



一歩踏み出した櫻井は、珠貴の手を取り顔を見つめている。

ふたたび 「あなたの気持ちが大事ですから」 と言ったあと……珠貴の頬に触れたのか……

私の立ち位置からは、ハッキリとは見えなかった。

顔を戻した櫻井が小屋へと視線を向けたことから、中に私がいると知っていたのではないか。

挑発的な彼の態度に憤りを感じながら、動くことのできない身が恨めしかった。

櫻井の敵意をむき出しにした目が思い出される。

会いたいとの電話に珠貴がここに駆けつけ、私の顔を見るなり胸に飛び込んでくれたのは嬉しかったが、昼間の情景が脳裏をかすめ、彼女の体をきつく抱き唇を放すことができなかった。

背中から腰へと手をすべらせ、スカートの裾をたぐり手を忍ばせる。

ハードサポートのストッキングが、珠貴の足を見事にガードしていた。



「ここでは……いや……」


「どこならいい?」


「部屋に……」


「どこの部屋だ。言ってくれないとわからない」



わざと珠貴を困らせるように、ストッキング越しの刺激を緩めることなく薄く色付いた耳元にささやいた。

熱い息を吐きながら、珠貴の声が聞こえてきた。



「意地悪ね。宗……おねがい……」



勢い良く抱き上げると、珠貴は私の首に腕を絡ませてきた。

抱えて歩きながらも唇が重ねられる。

彼女の足からはずれたハイヒールが床に落ちていく。

寝室へ続く廊下に、カツンと小さな音が響いた。


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20 Comments

撫子 s Room  

No title

ももちゃん

近衛の若・・・いいでしょう!この呼び方^^v(私も気に入ってます)

>探偵物を読んでいるのではないかと思いつつ・・・

おぉ・・これは嬉しい! 会話を楽しんでもらえると嬉しいわ。

宗一郎や珠貴の家なら、そうだね手ごわい相手がいて当たり前。
みんな「自分のため」に必死だもの、少しでも有利に動きたいのよね。

次は・・・宗一郎の語りです。
ある人が登場します!
また読んでね^^

2010/04/27 (Tue) 23:11 | 編集 | 返信 |   

ももんた  

No title

平岡と近衛の若(ちょっとこの言い方、好き・笑)の会話に、
探偵物を読んでいるのではないかと思いつつ、
最後の何行かで、そうそうそうだったと我にかえった私です。

手強い相手がいるのは、この家系ならば当たり前で、
みんなそれぞれ自らのプラスのために動いているんだけれど、
宗一郎には珠貴との強い愛情があるから、
欲だけで動く連中には負けない……はず。

さて、次なる作戦はいかに……。

2010/04/27 (Tue) 14:22 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

snowさん いらっしゃいませ^^

ボレロの二人は、そうですね ”じれじれ”かも^^;
進みそうで進まない、でも、珠貴と宗一郎はただいま蜜月のようです^m^

プロローグの二人になるのは間違いないので、もうしばらくおつきあいくださいね^^

2010/04/26 (Mon) 22:13 | 編集 | 返信 |   

snow  

No title

なでしこさん お久しぶりです。
ボレロの二人、大好きです。このじれじれな感じがたまりません。
セレブなのでなかなか庶民のようには進みませんよね。
でも、最後はhappyになってほしいです。
次回が楽しみ。

2010/04/26 (Mon) 16:39 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

あきちんさん

彼らの周りには、年季の入った味のある人物が多いようです^^
櫻井も、そろそろ本腰を入れてくるでしょう!
悪役ぶりも板につき(笑)、徐々に本性を現す彼に、宗一郎はどう立ち向かうのか!

次回もおつきあいくださいませ!

2010/04/25 (Sun) 23:27 | 編集 | 返信 |   

あきちん  

No title

宗一郎と珠貴・・・少しずつ味方が増えてきたけど、まだまだ前途多難だね。それにしても櫻井って嫌なやつ!ま・悪役が悪ければ悪いほど宗一郎が光るんだけれどね。

2010/04/25 (Sun) 19:53 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

veruteveruさん

【ボレロ】の世界にようこそ!
ついに足を踏み入れてくださったのですね わーい!
(寝不足、肩凝りは解消されたでしょうか?)

ハマってしまったとは、嬉しいコメント^^v
私もセレブの世界とは無縁なのですが^^; 思いっきり想像の羽を広げて・・・
「なりきり」で楽しく書き進めています。
他の創作に比べ、【ボレロ】は、かなり「大人の恋愛中心」の話になっていることと思います。

感想、とっても嬉しいでした^^
これからも宗一郎と珠貴をよろしくです!

2010/04/25 (Sun) 00:37 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

シャロームさん

更新予定日から一週間もあとになってしまいました^^;
(首は大丈夫ですか? 伸びすぎてません?^^;)

策士 宗一郎
駆け引きにかけては長けた男ですから、こういった事態には燃えることでしょう!
これからは、櫻井との対決も・・・
頑張れ宗一郎!

>それにしても北園さんやシャンタンのマスター、しのさんなどその道を極めた脇キャラがすてき。

ありがとうございます^^
脇のキャラを気に入っていただけるのは嬉しいです。
彼らのアドバイスや、ちょっとした物言いが宗一郎と珠貴に深く影響していくのかも・・・

次は、そうですね、若葉の頃かな~・・・

2010/04/25 (Sun) 00:31 | 編集 | 返信 |   

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No title

おはようございます

「ボレロ」今まで気になっていたんですがいっきに読ませてもらいました

いっきに読んだので寝不足、肩こりです(笑い)

大人の恋愛物語はまってしまいました
私には無縁のセレブの世界も「へ~そうなんだ」と興味大です

これから宗一郎と櫻井の展開が楽しみです
たいした感想書けなくてごめんなさい

2010/04/24 (Sat) 09:27 | 編集 | 返信 |   

シャローム  

No title

おはようございます。

今回は特に首をなが~くしてお待ちしてました。
策士宗一郎の本領発揮ですね。
これからの宗一郎対櫻井、宗一郎対須藤パパの展開が楽しみです。

それにしても北園さんやシャンタンのマスター、しのさんなどその道を極めた脇キャラがすてき。

次のキリ番、若葉の頃かな~

2010/04/24 (Sat) 08:43 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

eikoちゃん

今日はおやすみだったのね^^
eikoちゃんも後編から読んじゃった?
ごめんなさいね~><
前編の枠がキリ番の日になっていたので、わかりにくかったですね^^;

櫻井&可南子叔母
味方なのか敵なのか・・・珠貴には厄介な相手です。
さて、宗一郎は敵の目論見を崩すことができるのか!

二人の関係は、いままさに「蜜月」ですから~♪
短い時間も惜しむように、大人の時間が流れていくのです^m^

大人のアイテム
お褒めの言葉、嬉しいわ^^

2010/04/24 (Sat) 00:06 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

ぴよりんさん

>香取・櫻井連合は侮れない相手みたいですね。

そうなんです、どちらも自分の目的がありますから。
宗一郎、からくりが見えて、得策が思い浮かんだのでしょうか・・

セレブな世界
派手なようで、私たちと同じような悩みもあるのかも知れませんね。

2010/04/24 (Sat) 00:05 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

ゆきさん

昨日やっと更新できました! (予定より一週間遅れちゃった^^;)

相変わらずいけず?
あら・・・想像するっていいことなのヨン♪
ゆきさんの想像力をフルに発揮して、宗一郎と珠貴の「その後」をステキに演出してね~(って、私、意地悪かしら?^m^)

2010/04/24 (Sat) 00:05 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

miharuruさん

>宗さんの作戦勝ち

画策してもぐりこみ、珠貴パパに対面できたmのの、櫻井の思惑も感じ取ったことでしょう。
宗のことだから、ますます燃えてきたかも!

>繊細かつ大胆な作戦で、蹴散らしちゃってほしいな~^m^

そうそう、蹴散らしてほしいわ!^^v

大人の二人・・・逢瀬の時間は短くも情熱的なの^^

2010/04/24 (Sat) 00:04 | 編集 | 返信 |   

eiko  

No title

なでしこちゃん アンニョン^^
今日は、職場が創立記念日でお休みなので、ゆっくり宗様に合うことができて嬉しいです^m^

私も、後編から読んじゃって…あれれ?って、もう一度、前編から読み直してきました^^;

やっぱり、須藤家のパーティーに入るには、かなり画策しないと宗様でも簡単には入れないのね~!
可南子さん&櫻井さんは、かなり手ごわそう~--;
向こうも何か、仕掛けてきそうだから・・・
宗様、足元をすくわれないように頑張ってね~!!

それにしても・・・大人の時間(〃▽〃)
ハードサポートのストッキングに、ハイヒール・・・
なでしこちゃんの描く大人のアイテムに脱帽~~♪

2010/04/23 (Fri) 16:08 | 編集 | 返信 |   

ぴよりん  

No title

なでしこさん、こんにちは。

香取・櫻井連合は侮れない相手みたいですね。
宗一郎がどのように戦っていくのか楽しみです。
それにしてもセレブの世界は怖い…。

2010/04/23 (Fri) 15:32 | 編集 | 返信 |   

ゆき☆  

No title

おはよう(^O^)/

昨日は教室から帰ったらアップになってたんだけど
遅かったからもう一度読んでから…と。
相変わらず、いけずのなでしこさんだぁ~と。
いくら「想像してね?」と言われても貧困な妄想力では
無理よん~♪

次のキリ番までが待ち遠しいです

2010/04/23 (Fri) 05:59 | 編集 | 返信 |   

miharuru  

No title

アンニョン~^^

そう簡単に二人の仲が認められるわけもないので
取っ掛かりとしては、宗さんの作戦勝ちのようですが
敵(爆)も侮れないもの
珠貴の気持ちが大事と言いながら
縁談話を先に進めるのも、きっと怠らないはず・・・。
宗さんには、強力なライバル(櫻井)だからこそ
繊細かつ大胆な作戦で、蹴散らしちゃってほしいな~^m^

まあ、情熱に身を任す二人は、大人な感じで、フフフ。

2010/04/22 (Thu) 23:33 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

natusonaさん

ごめんなさいね~><
前編の記事欄は、キリ番の日に日付けを残すために先にUPしてたの・・・
後編ことは考えてなかったのです^^;

櫻井は、小屋の中の宗一郎に気がついているかもね。
牽制しつつ釘を刺す、手ごわいライバルです。

最後の状況にドキドキ・・・
ドキドキしてもらえる描写になってたのね、うふふ♪

2010/04/22 (Thu) 22:52 | 編集 | 返信 |   

natusona  

No title

なでしこさん、今晩は~~

あ~~~ なんと 急いだから、間違って、後編から読んだわ~
前編は 少し前に 書いていたのね!!

変だ?と思いながらネ。

小屋の中の宗・・きっと感づかれているんだろうね、

櫻井の自信に満ちた様子が早く 崩れるように・・・

最後の二人の状況にドキドキしながら!

2010/04/22 (Thu) 22:29 | 編集 | 返信 |   

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