【花の降る頃】 -彩を織る- 6 (終)

 
 
あのときのことを思い出すと、思わず笑みが浮かんでくる。

柚季さんのお母さまのおかげで妊娠がわかったあと、私は圭吾さんの厳しい目に守られることに
なった。 

走らない、重いものは持たないなど、体の負担になることは制限され、少しでも無理をすると
怒られるのだから、私は無茶のしようがなかった。 

そのおかげか、子どもは順調に育ち……

無事に生まれてきた子どもは、いま膝の上で眠っている。

抱きあげて電車の外を見せてあやしてくれた男性が 「ボク 眠そうですよ」 と子どもを
渡してくれたときには、息子のまぶたは半分落ちかけていた。 

腕に抱えられ揺られて気持ちが良かったのだろう、私の膝の上でほどなく眠ってしまった。

「ありがとうございました」 とお礼を伝えると 「姉たちの子どもで慣れてますから」 と言った顔が
とても優しくて、 いつか素敵なお父さんになる予感がした。 


降りる駅が近づき膝の上の息子を起こすと、寝起きのぐずりもなく機嫌よく起きた。

子どもの手を引いて、お世話になった男性にもう一度頭を下げようと顔を上げると、
その人も降りるらしく、背中を追うように一緒に電車を降りた。 

男性は人待ち顔のようで、軽く会釈をして別れた。



「隼人」



改札口向こうから声がして、走り出しそうな子どもの手をギュッとつかんだ。

迎えに来てくれたことが、素直に嬉しかった。


改札を出ると、しゃがんで息子を待つ圭吾さんがいた。

「隼人」 と呼ばれ、ようやくさまになってきた走りで、息子が圭吾さんの腕に飛び込んでいく。

抱き上げられて嬉しそうな顔は、赤ちゃんから幼児期へ入った顔に見えた。



「おかえり」


「おかえりなさい 迎えに来てくれてありがとう 眠くない?」


「うん 昨日も頑張って起きてたんだ 寝てばかりでは時差はなおらないからね


「そうだったの 出張 お疲れさまでした」



圭吾さんは疲れを残す顔ではあったが、隼人の顔を見たら元気が出たよと言い、腕に抱いた
小さな体をさらにギュッと抱きしめた。
 
隼人が キャッ とくすぐったそうに身をよじる。
 
こんなところも、赤ちゃんの動きではなくなっていた。
 
 
 
「ねぇ 隼人 こうして見ると ちょっとお兄ちゃんに見えるわ」


「そうだよ 春にはお兄ちゃんになるんだからな 萌恵 電車は大丈夫だった?」


「えぇ 大丈夫だったわ と言いたいけど 少し酔ったの 近くにいた方に席を譲ってもらったの

隼人も抱っこしてもらって お世話になっちゃった」  



まだ、迎えの誰かを待っている様子の男性へ顔を向け、「あの人よ」 と圭吾さんに教えていると、駅に橋田さんが入ってくるのが見え、驚くことに先の男性に声をかけた。



「岩切 こっちだ」


「おう 遅いぞ」


「悪い 渋滞で……あっ 隼人クン 萌恵さん おかえりなさい 芹沢さんも お疲れ様です」



橋田さんは圭吾さんの会社の方で、同じマンションに住んでいる。



「橋田さんの お知り合いの方? 電車の中で 隼人がお世話になったのよ」


「そうでしたか 岩切は中学高校の友人です」


「妻と息子がお世話になったそうで」



いいえと岩切さんは大きく手を振って、たいしたことはしてませんと、しきりに恐縮していた。

岩切さんは橋田さんの車に、私たちも圭吾さんの車に乗り、向かう先は同じ。

前後に並び、マンションへの道を走る。



「お世話になったのは 橋田君の友達だったんだね 隼人を妊娠したときも そんなことがあったね」


「覚えてる? 柚季さんのお母さまよ 私がめまいで倒れそうになって 電車の中でお世話になって

いろいろあったでしょう」


「あはは……そうだった いろいろあったね」



圭吾さんもひかりさんのことを思い出したのか、口の端をあげて ふっ と笑いを漏らした。

あれから……
 
ひかりさんの片思いは、それで終わらず、彼女の想いを知った中森さんもひかりさんに好意を持つようになった。 

二人の交際が始まり、真田さんのご両親に紹介するまでになった。
 
けれど……

柚季さんのお母さまがおっしゃったとおり、真田さんのご両親の反対にあい、
一年以上認めてもらえなかった。 

そのお二人は、もうすぐ結婚することになっている。



「萌恵 体は本当に大丈夫なのか やっぱり迎えに行けばよかったね」


「私もそう思ったけど でも みなさんに助けていただいたから」


「隼人のときは柚季さんのお母さんだろう 今度は橋田君の友達に世話になったのか

人と人のつながりは大事なんだって こんなときに思うね」


「えぇ……そうね」


「だいぶ紅葉がすすんだね 向こうは一気に冬だった 日本の四季が懐かしく思えたよ」



出張先で見た山も色づいていたが、誰も紅葉を愛でることはなく、日本の秋の風情が
懐かしく思えたと、遠くの山の風景に目をやりながら、圭吾さんが話してくれた。 



「来週 紅葉を見に行こうか」



秋の彩りの美しさを、隼人にも感じさせてやりたいと言う。

そうね……と返事をして、膨らみかけた腹部に手を当てた。

この子が生まれてくる頃は、春の花の盛り……

目を閉じて、桜の彩りが美しい季節を思い描いた。

 


※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※



お読みくださいましてありがとうございます。


今春、Yahoo!ブログから引っ越し後、ブログ内のリンク切れの削除や、文字サイズの訂正など、ただいま修正中です。




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6 Comments

撫子 s Room  

No title

viviちゃん

副題 『彩を織る』 に注目してくださったこと、嬉しいです!
viviちゃんが書いてくださったように、人と人のつながり、織り成す模様を軸に書いてみました。

新婚の萌恵、母となった萌恵、そして今・・・
それぞれの彼女を感じてもらえたこと、良かった^^
(萌恵の口調も、微妙に変化させました^m^)

「なでしこならでは!」の色を描くためにも、書き続けていきたいです!
これからもよろしくお願いします^^/

2012/11/15 (Thu) 00:59 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

miharuruさん

思わぬ「誤解」もありましたが、圭吾と萌恵は温かい家庭を築いているようです^^
夫婦の絆を深めるふたり・・・
また、いつか書きたい二人です^^

2012/11/15 (Thu) 00:53 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

千菊丸さん

誤解も解け、圭吾と萌恵に穏やかな時間が戻ってきました。

電車の中で萌恵に声をかけたのは、「クマさん」こと岩切健太でした。
人と人のつながりは、縁ですね・・・

2012/11/15 (Thu) 00:45 | 編集 | 返信 |   

vivi☆  

No title

『彩を織る』

6周年記念創作のテーマは「人と人との出逢い、繋がり」なんですね!^^

重ねた年月、萌恵ちゃんが織りなす彩の、温かさ・優しさ・強さ。
そして、その豊かな彩に包まれた彼女の幸せな姿に胸があつくなりました。

そして、、

「初々しい新妻の胸の内」「母となり垣間見える自信」
時間軸のなかで、細やかに変化させた文体での萌恵ちゃんの心情表現に
なでしこちゃんが織りなす彩の、深さを感じています。

積み重ねた6年の年月で生まれた様々な色、これから生まれる新たな色。
これからも”なでしこならでは!”の色で、楽しませてくださいね^^/

2012/11/14 (Wed) 14:46 | 編集 | 返信 |   

miharuru  

No title

アンニョン~^^

ドラマのようにロマンティックな展開はなくとも
日々の生活の中で
だんだんと夫婦の絆が深まってく萌恵と圭吾に
うれしくなってしまいます~^^

2012/11/13 (Tue) 19:55 | 編集 | 返信 |   

千菊丸  

No title

誤解が解けてよかったです。
電車で萌恵を助けてくれた男性も、圭吾の知り合いだとは。
縁は異なものとはよく言ったものですね。

2012/11/13 (Tue) 17:51 | 編集 | 返信 |   

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