【手のひらの幸せ】 ― 未来へ ― 1



子どもはすくすく育つと言うけれど その通りだと思う

日に日に変化する鈴を目の当たりにして 子どもの成長のめざましさを実感した一ヶ月だった

もう少し休暇をとりたいところだが 仕事の関係でそうもいかず 俺は職場に復帰した

昼間は鈴と二人になった円華は 最初の頃は不安そうだったが 近所の公園で知り合った人の紹介で

地域の育児サークルに入り この頃は楽しそうに過ごしている

同じくらいの子どもを持つ母親同士 情報交換やおしゃべり 家々の訪問と 上手く付き合っているようだ

円華は母親の中では年齢が上らしく みんなから頼られるのも満更ではない様子だった



「早い子はね こんな小さなうちから早期教育を始めるんだって そんな話を聞くと焦っちゃう」


「早期教育? えーっ まだいいよ 遊べるうちは遊ばせなきゃ 勉強なんてどうやってさせるんだよ」


「英語のCDを聴かせたり DVDの教材を見せるだけでも違うって聞いたわ」


「そりゃまたすごいな 円華がどうしてもさせたいって言うのなら反対はしないけど……」


「反対しないけど 要は賛成じゃないのよね……わかった もう少し考えてみる 

じゃぁ ベビースイミングってのはどお?」



円華の話に笑い出してしまった こんなに教育熱心な母親になるとは思わなかったな

英語はさておき スイミングはいいじゃないかと言うと 嬉しそうな顔をした

自分も産後の運動になるからと 翌日さっそくスイミングクラブに入会してきたのには驚いた

泳ぐ二人をビデオにおめようと見学に行くと 鈴は水に浮かべられパシャパシャと手足を動かしていた

もちろん円華が支えているのだが 水を怖がりもでず達者にこなしている

将来は水泳選手か……なんて思っていると 周りにいた父親達も 口々に同じことを言ってるのが聞こえてきた

はは……みーんな親バカだよ 俺もそうだけど

泳いだ日は疲れるのか 鈴はいつもよりぐっすり寝てくれて 夜中に目を覚まさなくなった



「子どもの寝顔って見飽きないわね」


「うん 寝顔は俺の小さい頃そのまんまだってお袋が言ってた」


「そうなのよ お義母さんに要の小さい頃の写真を見せてもらったら リンちゃんと同じ顔なんだもん 

笑っちゃったわぁ」


「女の子なのに こんなに眉毛がくっきりで可哀想だな……」


「大丈夫よ 女の子はそのうち化粧をしたり眉を整えたりするの 心配ないって」


「そうなったらまた心配だよ 可愛すぎるのもなぁ 悪い虫が寄ってくる」



鈴が生まれてからベッドではなく 和室に布団を敷いて寝ていた

俺達の布団の間に鈴を寝かせる 川の字ってやつだ

こうすると夜中の授乳も楽らしく 多少むずがったくらいだと 

トントンと子どものお腹に手をおくだけで泣き止んでくれた



「はは……要はどうしてもそんな想像しか出来ないのね 娘ってそんなに可愛い?」


「可愛いさ 円華は可愛くないの?」


「可愛いけど 同性だし男親とはちょっと違うかもね 男の子だったらそう思うかも」


「もう一人欲しいねぇ おくさま どうでしょう」


「どうでしょうって それは私だって欲しいけど……そんなに上手くはいかないわよ

続けて女の子が生まれるかもしれないのよ」


「それでもいいじゃないか こんな可愛いのが二匹いたら もっと楽しいよ」


「やだ 二匹って 動物じゃないのよ」



普段の会話は鈴の話題が多く 二人だけで出かけることもなくなったが それはそれで充実していた

手招きした俺に ちょっと微笑んで素直に俺のそばにやってきた女房は 今 すっぽりと懐に収まっている



「このおっぱい いつになったら俺のところに返ってくるのかなぁ」


「えっ? おっぱいって要のものだったの?」


「そうだよ いまはリンに貸してるけどね 今夜はちょっと返してもらおうかなぁ」



母乳を与える胸は大きく 手に余りそうなほどだ

家では 誰ばかることなく胸をはだけ 子どもに授乳する姿に 母親のたくましさを見る

懐に抱き寄せた円華の胸をなぞると 妊娠以前とは異なり 固く張り切った肌は血管が浮き出すほどだった



「鈴が生まれたとき担当してくれた看護師さんが 

『お父さん ママのおっぱいを当分借りますね!』 って俺に言ったんだ

だから そうか 俺のものなんだと思ってた」



おっぱいを借りるって 面白いわぁ あはは…… と 円華が身をよじって笑う

笑い続ける円華をギュッと抱きしめた


ハイハイを始めたかと思ったら ある日椅子につかまり ひょいと立ち上がった鈴は ほどなく伝え歩きをはじめ

いまでは部屋の中をグルグル回っている

まだ独り立ちはできないが 壁に手をつき右へ右へと進む

左には歩かないのが笑えたが 一日中そうやって歩くことを楽しんでいるようだ

ときどき ”おー おー” と声をだす

もしかして ”おとうさん” と言いたいのか?

そう女房に言うと ”違うわよ おかあさん って言いたいのよ” と反論された

パパなんて呼ばれるのは恥ずかしくてたまらない

鈴には ”おとうさん” って呼ばせるんだ この件に関しては譲るわけにはいかない

円華にそう言うと ”いいんじゃない? ウチは おとうさん おかあさん でいきましょう” と賛成してくれた

鈴がちゃんと発音できる日を待つだけだ

最初に口にするのが ”おとうさん” なのか ”おかあさん” なのか 非常に気になるところではあるけれど……



      
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6 Comments

撫子 s Room  

No title

kyoちゃん

いつもありがとう!
無事に最終回を迎えました。

こんなに可愛がった娘に邪険にされる日が来るのか、要パパ(笑)
それでも心配するんだろうなぁ~

おっぱいの貸し借り はは…^^
母乳の思い出、みんな苦労してるのね
私は呑気でしたね 溢れるくらいでたから(なんと絞って捨ててましたから)

2007/12/19 (Wed) 18:28 | 編集 | 返信 |   

kyopiyo  

No title

こんにちは!またまた遅くなってしまいました。

親ばか丸出しの世のお父さん方に、にやりとしてしまいました。男親にとって娘は目に入れても痛くないほど可愛いのね。家は男の子だけど、それでも可愛がっているもの。リンちゃんが思春期になって、「お父さんあっちに行って!ウザイ!」なんて言われた日にはどうなってしまうのかと今から心配してしまう私がいます。

おっぱいの貸し借りも面白かったです。たくさん出たなでしこさんが羨ましい…私は途中で乳腺炎になって断念しました。子供はおっぱいが好きだったんだけど、あまり出なかったし、痛さとで…その後、ミルクをあまり飲んでくれず苦労しました。そのせいかいまだにやせっぽちです。

リンちゃんが誰を呼ぶのか読みに行ってきます。

2007/12/19 (Wed) 15:42 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

おっぱいは誰の物?

はは……私の体験だと思った?(笑)
その通りです!

母乳は個人差があるものね。
私は苦労せずに出たので、本当に助かったわぁ

ミルクを飲ませたのは、私が不在のとき数回だけ
と言うことは……そのほかは、ずーっと子どもとセットで行動してたの。
これも大変だったわよ。

遠い記憶だけど、小さな赤ちゃんの泣き声を聞くと、胸が張ってくる気がするの 今でもね……もちろんでないけど(笑)

2007/12/19 (Wed) 11:41 | 編集 | 返信 |   

rik*y*on  

No title

ははは、やっぱりね^^。
ここはなでしこさんの経験談が入っているなと思ってた(*^m^*)

私は離乳も何も、一人目の時は全く出なかったの。
二人目の時は、胸は張るんだけどなかなか出なくて、凄く痛くてね(~_~;)
看護師の方に“とにかく赤ちゃんに吸わせなさい”と言われて必死だったわ。
そうしたらやっと出るようになったけど、それでもやっぱりミルクと半々だった。
母乳だと夜中の授乳が楽なのよね。少しは助かったわ。

今では遠い記憶になりつつあるけど、あのころは飲ませておけば寝てくれたから楽だったわ。
今じゃその口から文句ばっかり聞こえてくるけどね(笑)

2007/12/19 (Wed) 00:19 | 編集 | 返信 |   

撫子 s Room  

No title

rikoちゃん

要の親バカぶりは、ある程度予想がついてたでしょう!
目いっぱい愛情を注ぐ彼ですから、人目なんて気にしません(笑)

おっぱいは誰の物?^^
私ね、離乳の指導のとき「そろそろ おっぱいをパパに返しましょうね!」 って言われたの~~(笑)
大爆笑でございました!

2007/12/18 (Tue) 08:57 | 編集 | 返信 |   

rik*y*on  

No title

要君は日々リンちゃんの成長に目じりを下げ(笑)、円華ちゃんはしっかりと母親としての責務を果たし、幸せを築き上げて行ってるね。
何でも自分の子供を中心に考えてしまう、これが親ばかの典型だと思うけど、それを自覚している所がまた笑えるわ。。

へぇ~、おっぱいって赤ちゃんに貸してるんだぁ・・・微妙に納得(^m^)ムフッ

要君が”おとうさん”と呼ばせると言うのは、要君のイメージからしてなんとなくわかるような気がするわ。
ウチも若い親ではなかったので、ダーも私も始めからそう決めてたの。
両親そろってパパ、ママってガラじゃないもの(爆)

2007/12/16 (Sun) 23:38 | 編集 | 返信 |   

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