もうひとつの・・・【彼と私のバラ色の毎日】 5
- CATEGORY: 短編の部屋
昨日の記憶……
バラの花束をもらって
ジュンにプロポーズされながら 彼に文句を言って
こんなことになった理由を聞いて
感極まった私を 彼が抱きしめてくれた
そのあと そのあと……そうだ
二人で婚約式をしたのよ!
えっ? じゃぁ 私 彼のプロポーズを受けたってこと?
なんて返事をしたんだろう……
記憶を手繰り 順をおって頭の中で再現していくうちに 赤面するような甘い光景を思い出した
結婚なんて絶対出来ないと言い張る私を ジュンは腕の中に閉じ込めて
何度も 何度も ”結婚しよう” って耳元で繰り返し言われて……
最後に頷いたような気がする
左手を天井にかざすと ダイヤの指輪が まだ居心地悪そうに薬指にはめられている
隣りで寝ているジュンの小指にも 私と同じデザインの指輪がはめられていた
夢じゃないのよね
これって現実なのよね
指輪も 隣りの彼も……
ジュンのおかげで 私の休日は一変した
別れるつもりの男性から求婚され
NO と断るつもりが YES と返事をしていた
叔父と寂しくランチのつもりが ケイタリングのフルコースで彼とワインを傾け
一人でDVDを観て過ごすつもりが ジュンの胸で一晩をすごしたのだから……
昨日の出来事を思い出して また顔が赤らんできた
「結婚しようって言うけど そんなに簡単なことじゃないのよ ご両親だって」
「両親には話をした 僕が怪我をしたとき 君は僕の両親を訪ねてくれたじゃないか
あの女性なら安心だって 父も母も大喜びだよ」
「そっ そんな……じゃぁ 私の両親はどうするの 娘の結婚なのよ」
「叔父さんが話をしてくれた もちろん僕も実家に伺ったよ 大変喜んで下さった 素敵なご両親だね」
「ウチの両親に会ったの? 母はアナタのファンですもの 反対なんかしないわよね……」
母は誰よりもジュンのファンだった
父を前にしても ”こんな男性と恋をするなんて どんなにいい気分かしら” などと
ドラマと現実の区別がつかないほどで ジュンの出演作品を 何度も見ているのだから
「事務所の人はどうするの 誰にも言わないなんて無理よ」
「マネージャーと総務部長には話をした 手続き上 この二人を避けるわけにはいかないって」
「叔父さんが言ったの?」
「うん……共犯者になってもらおうって 一人で抱え込むのは大変だろうって言ってくれた」
「手回しのいいこと……ねぇ もうひとつ聞いてもいい? 指輪のサイズはどうしてわかったの ピッタリだわ」
「君が教えてくれたよ」
「いつ 私 そんなこと言った覚えはないわ」
「撮影ではずしたピンキーリングを見せて 僕の小指と君の薬指 どっちが大きいかなって聞いた そしたら……」
「あっ! 言いました……私の方が細いわねって 号数まで言ったわ もぉ 自分から言うなんて
知らず知らずにアナタに協力したってことなのね」
「そういうこと」
ジュンの策にまんまと嵌ってしまった私は もう逃れられないと観念した
叔父の部屋を借りたときから その計画は出来ていたようだ
婚約して間もなく 私の部屋と上の階を繋ぐ工事が始まった
部屋の契約者は叔父であるため ジュンが関わっていることが漏れる心配はなかったが
改築中 彼は当然のように私の部屋ですごしている
「まだ結婚もしてないのに どうしてここにいるの けじめはないの?」
「そんな固いこと言わないで 上の部屋に僕が住んでるってバレたら困るだろう」
「そうだけど……」
そう言いながら 改築工事が済んでも 自分の部屋に戻ることはなく
一人は嫌だから と 私の部屋に居続けた
彼の言い分を 仕方なく聞いたような振りをしていたが 私だって同じ
寂しさを紛らわすためでなく 誰かと一緒に過ごす安心感は 一度知ってしまうと手放せないもの
いつしかジュンと私の空気が馴染み そばにいるのが当たり前になっていた
同じ部屋にいても それぞれが好きなことをし 存在を感じながら過ごす
なんて心地良い時間の流れだろう
一人暮らしが長かったのに 今ではジュンのいない日は 部屋が広く感じて仕方がない
結婚するって こういうことなのね……
一年が過ぎる頃 互いの存在は なくてはならないものになっていた
新作ドラマの記者会見の会場は 溢れるほどの記者で埋め尽くされ
髪を切り イメージを一新した彼をカメラに収めようと ものすごい数のレンズがひな壇に向けられていた
ジュンの久しぶりのドラマとあって 注目度はかなりのもので 彼の一言一言が
正確に雑誌やネットに載ることになるだろう
私はいつも以上に緊張していた
この席で彼は 結婚の報告をするというのだから 落ち着いてなどいられない
「今日発表するよ」
「本当にアナタが言うように上手くいくかしら……」
「大丈夫 安心して見ててよ」
昨夜 今朝と 何度も同じ会話がくり返され そのたびに ”安心して” と彼は言う
ここまできたら彼を信じるしかないわね
私は 彼の背中を ポンッ と叩いて会見場へと送り出した
ドラマに関係した質問が続き よどみなくジュンが答えていく
他の共演者への質問も大方すんだころ 私たちが予想した質問が飛んできた
「ジュンさん 3年以内に結婚する予定だと以前おっしゃいましたね
そろそろ期限が迫っていますが ご予定は?」
「はは……みなさん 良く覚えてらっしゃる もちろん僕も覚えていますよ」
そこまで言うと 口元に手をあて小さく咳払いをしたあと 記者席を見据えた
「良い機会ですので みなさんにご報告します 僕は結婚しています 去年ある女性と家庭を持ちました」
一瞬にして会場はざわめき カメラのフラッシュが眩いばかりに飛び交った
それまで統率の取れていた記者の質問は 主催者の制止もむなしく矢継ぎ早に繰り出されていた
表現こそ違ったが 記者の聞きたいことは同じで 相手は誰かと言う事と 結婚した時期
子どもができたから結婚したのではないかとの この三点に絞られていた
大騒ぎになるだろう思われたため ドラマの共演者には あらかじめ重大発表をする事は伝えられていたが
それでも まさか彼の結婚の報告とは思わなかったようで みなみな驚きを見せたが
中には祝福の握手を求めて席を立つ共演者もいた
予想していたとは言え あまりの騒ぎに会見席のジュンも 多少戸惑ったようだ
ベテラン俳優の一人が ジュンの背中を叩き 続きを話すように促してくれた
「結婚して一年になります 子どもはまだいません 彼女のことは一般人であるため公表は控えます」
そんな答えじゃ納得できないと あちこちから声がかかり
一方的過ぎると ジュンを批判する声さえ聞こえている
「このような仕事をしているのなら 私生活もみなさんの関心の的になる それは充分承知しています
けれど 僕の大事な人を守るためです 僕自身を守るためでもあります それに……」
そんな理由は聞いたことがないと ざわつく記者を見据えていたジュンの顔が ふっと穏やかに微笑んだ
「それに 僕はファンのみなさんとともにいたいと思います
スクリーンの上や画面の中の僕を見て欲しい そして いつまでも愛される存在でありたい
夢を与える それが俳優として大事なことではないでしょうか それなのに
僕の後ろに家庭が見えては みなさん幻滅するでしょう」
極上の微笑を浮かべた彼の言葉に 会場が ”わっ” と沸いた
「どうぞご理解いただきたいと思います 今日はありがとうございました」
椅子から立ち上がり 記者席に向かって深々と礼をしたジュンは 会見場を振り返ることなく立ち去っていった
ロングヘアーから一新 短い髪は ドラマの役そのものを髣髴とさせ
今日の会見も 役を意識し 計算された発言をしていたようにも見えた
結婚して一年
彼のわがままは変わっていない
仕事に行き詰ると 無理な事を言って私を困らせ
大きな仕事のあとには 片時も私を放さず ずっとそばにいてと甘えてくる
ところが 家を一歩出ると 私の夫の役を脱ぎ捨てる
画面の中のアナタは 観る人の恋人であり 夫であり この先 父親にもなっていくのだろう
私だけのジュンではないのだと 今日あらためて思い知らされた
わかりきっていたことなのに 独り占めできない苛立ちが込み上げてくる
でも仕方ないわね スターの夫を持った妻の苦悩ってことね
ジュンの妻は きっとバラ色の毎日を過ごしているのだろう なんていう人もいる
一度経験してみるといいわ
思ったより手のかかる夫なのよ 彼って人は……
ドキドキもイライラもさせられるけれど 私にとっては愛すべき人
彼との毎日は やっぱりバラ色に彩られているのかもしれない なんて思わせてくれるのだから
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もうひとつの ”バラ色のお話” いかがだったでしょうか。
「彼が夫だったら・・・」 の仮想の話です。
一年前に書いたものに、今回少々加筆して5回にわけてお届けしました^^
(連日UPはどうでしたか? 読みにくくなかった?)
甘い展開を想像してくださった方も多かったかも^^;
二人の親密な時間は、行間に感じていただけたら嬉しいです。
楽しい空想でした。
時には、こんなお話もいいかな~^^
またいつか・・・
「私」 になりきって、彼の妻になってくださったかな ^m^
コメントはご自由書いてくださいね!
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