【違反切符】 2 ― 見合い開始 ―
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おばさんたちが去ると二人きり
さて どうしたものか
時計を見ると 3時を少し回ったところだった
「これからどうしましょうか 僕は こっちには年に1・2回しか帰ってこないんで
気の利いた場所を知らなくて」
実際その通りだ
帰省しても家にいるか 友達に会うかで休暇は終わる
休暇は3日もあれば充分だ
本当にどこも思いつかない
彼女に聞くしかなかった
「そうですね 水族館が出来たのを知ってます? 3月にオープンしたばかりですけど
あっ でもここからだと車がないと……」
「僕 車で来てますから そこ 行ってみますか?」
行き先があっさり決まり 地下駐車場へ向かった
「おじゃましますね」
彼女はそう言って またにっこり顔で車に乗り込んできた
わぁ この笑顔いいよ 笑うと 目が三日月みたいになってかわいいな~
おじゃましますって こんなコト言って車に乗る子は初めてだよ
水族館への道を案内してもらいながら走る
途中 懐かしい場所も通った
「ここもずいぶん変わったね 昔は公園だったのに いつの間にこんなビルが建ったの?」
彼女は 俺の質問にも答えるが 自分からもよくしゃべる
好きな映画の話なんて お互い好みが似ているとわかると大盛り上がり
へぇー 面白い子だなぁ
女の子で俺の趣味にあわせてしゃべれるなんて 滅多にいないな
それに 地元の言葉で話が出来るのがいいよ
こんなに気が楽なんだ
就職して東京に行った頃 言葉のイントネーションに気を遣ったっけ
標準語って気が張るんだよな
車で30分ほど走ったところに水族館はあった
連休のためか 館内は親子連れで混雑している
オープンしたばかりかぁ どこもかしこもピカピカだよ
へぇージンベエザメがメインなんだ
巨大な水槽を我が物顔で泳ぐ ジンベエザメの姿に見とれていた
いつの間にか一人 サメの姿を追っていた
あれっ 彼女がいない
見回すと 壁の案内板を熱心読んでいる
「なに おもしろいことでも書いてあるの?」
「ここ 夜も開館してるみたい 魚の夜の生態をお楽しみくださいって わぁ~楽しそう
夜は7時から 残念だわ~見たかったのに」
彼女の顔は 本当に残念そうだ。
次の瞬間 自分でも信じられない事を口走っていた
「明日の夜 一緒に見にきませんか?」
彼女の残念そうな顔が可哀想で 笑顔が見たくてつい
まぁ いいか
別に今日断らなくても 明日事情を話しても遅くはないか
水族館をでて 彼女のオススメのフレンチレスランで食事をした
なんでもよく食べる子だ
女の子にしてはかなり速いスピードで平らげてるよ
あっ でも 食べるのきれいだな
よくお袋に怒られたっけ
「ひじを突いちゃいけません お箸がちゃんと持てない子はダメよ」って
この子ならウチのお袋も気に入るだろうな
はっ! いかん なんでこうなるんだ!
俺はまだ結婚はしない 結婚はしない 結婚はしない……
頭の中で呪文のようにつぶやく
彼女を家まで送っていく
途中 急に彼女が無口になった
「気分でも悪いの?」
「いえ あの 今日のことを母やおばに なんて報告しようかと考えてたら
憂鬱になってきちゃって」
そうだった それが待ってたんだ
あー俺も憂鬱だよ
「これ 見合いって言うのかなぁ 今日 和音さんに会うのを空港からの帰りに聞いて
考える暇もなくて いきなりご対面で でも お見合いには違いないか ははっ」
「えっ?桐原さんもそうなんですか?私は今日じゃないけど 聞いたの昨日です
おばからいきなり電話で ”明日2時ね” って だから桐原さんの履歴書や
写真もよく見てなくて あっ すみません」
「へぇーそうだったんだ そうかぁ はは なんだか気が軽くなってきた これって ”ゲリラ見合い”
だと思わない?」
「ゲリラ見合い? そうですね ホントだわ なんだかおかしくなっちゃった」
大きな口をあけて彼女が笑い出す
屈託のない笑い
「今日 結論を出さなくてもいいんじゃないかな?明日の約束もしたしね どお?」
彼女が頷く
よかった……
俺たち 価値観が似てるのかも
考え方が一緒だよ
こんな子と付き合ったら楽だろうな~
彼女を送り届けて 家までの30分
今日の事を思い出す
笑ったときの目がかわいかったな
魚の説明を片っ端から読んで 一人で感動して
ご飯をきれいに食べる子で……
気がつくと 良いことばかり浮かんでくる
家に帰り着くと扶美子おばさんが待っていた
「高ちゃん アンタ 和音さんとのこと承諾したんだってね
よかった ホテルで別れたっきり なーんにも連絡が来ないからやきもきしてたのよ
いま あちらから連絡があって お願いしますって よかったわね これでお姉さんたちも安心ね」
あん? おばさん 今なんて言った?
和音さんとの事を承諾しただって?
どこを どうしたらそんな話になるんだよ!
「おばさん それ誤解 違うって ただ 明日会う約束をしただけだよ」
今度はお袋がしゃしゃり出る
「だからねー それを承諾したって言うのよ お見合いってのはね 一回会って気が合わなければどっち
かが断るの アンタ 明日の約束をしたんでしょう?
それは”お受けしました よろしくお願いします”ってことなのよ」
いい加減にしてくれ!!
話にならない
何が”お受けしました よろしくお願いします”だ
腹ん中がムカムカして さっさと部屋をでた
なんだよ あームカツク
俺の意見なんて全然聞きゃしない
怒りにまかせて二階への階段をダンダンいわせながら上る
ドアにも八つ当たりをして ”ダンッ”と盛大に音をならして閉めた
ポケットの携帯が メールの着信音を知らせた
メールを開くと彼女からだった
『今日はありがとうございました 楽しかったです
家に帰ったらおばが待ってて 今日の事を話しました
でも すごく誤解してるみたいで困ってます
桐原さんにご迷惑がかかってませんか? 和音』
心の中に暖かいものが流れ込んでくる
情けないけど涙が出そうだ
ホントに良い子だよ
自分も辛いだろうに 俺の心配をしてくれてる
でも ここで彼女を認めたらおふくろ達の策にはまることになるしな~
あーどうすりゃいいんだー
とにかく今日は寝よう
東京から帰ってきて いきなり見合いをさせられて
緊張して……疲れた
後は 明日考えよう
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